『一流シェフのファミリーレストラン』にみる真の創造性 かつての“アメリカ映画”がここに

『The Bear』にみる“真の創造性”

 テーマは現代的でも、ルックはオールドスタイル。『The Bear』の舞台はコロナ禍後と言及されるも、店を出れば周囲には古びた建物が並び、色褪せたロケーションは本作にいつの時代の作品とも知れない個性を与えている。カーミー役のジェレミー・アレン・ホワイトの素晴らしい顔立ちも相まってか(筆者は若い頃のアル・パチーノを彷彿)、まるで70年代のアメリカ映画を観ているような幸福な錯覚があるのだ。物語はやがてマイケルの不在という大きな空洞と、遺された家族の葛藤を浮かび上がらせていく。市井に暮らす人間の機微と複雑さを描くのもまたかつての“アメリカ映画”だった。

 わずかなディテールと行間から人物の心情を浮かび上がらせていくショーランナー、クリストファー・ストアラーとジョアンナ・カロの筆致は簡潔でいて芳醇。『The Bear』の最大の魅力は1話約30分という放送時間にある。ストリーミングドラマが主流になって以後、放送時間枠という概念はなくなって久しく、近年はストーリーテリングを優先してエピソード毎で放送時間を変動する作品も多い。しかし、限られたフォーマットでより豊かな物語を描く30分ドラマにこそ、真の創造性があると言っても過言ではないだろう。『The Bear』は先頃ノミネートが発表された第75回エミー賞で13部門で候補に挙がった。同じコメディ部門の作品賞候補を見渡せば公立小学校を舞台にしたモキュメンタリー『アボット・エレメンタリー』や、演劇に目覚めた殺し屋が主人公の『バリー』、リミテッドシリーズ部門には交通トラブルが奇想天外な事態を呼ぶ『BEEF/ビーフ ~逆上~』など、30分ドラマはPeakTVにおいて最も複雑で多様な進化を続けてきたジャンルである。

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 ところでタイトル『The Bear』(=熊)とは何か? 亡きマイケルが弟カーミーを呼ぶあだ名であり、カーミーにとっては内なるプレッシャーの象徴。そして……『一流シェフのファミリーレストラン』という気の抜けた邦題には一言物申したいところではあるが、『The Bear』というタイトルの意味がわかるクライマックスはグッと来るはず。極上の1本をぜひともご賞味あれ。

■配信情報
『一流シェフのファミリーレストラン』シーズン2
ディズニープラスのスターにて、7月26日(水)より独占配信開始
©2023 Disney and its related entities

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