長内那由多の「2022年 年間ベスト海外ドラマTOP10」　スピンオフが憂う社会の分断と対立

　リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2022年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2022年に日本で放送・配信された作品（シーズン2なども含む）の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第3回の選者は、“インデペンデント演劇人”の長内那由多。（編集部）

1．『ベター・コール・ソウル』S6（Netflix）
2．『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』（U-NEXT）
3．『キャシアン・アンドー』（ディズニープラス）
4．『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』（Netflix）
5．『Pachinko パチンコ』（Apple TV+）
6．『アトランタ』S3、4（ディズニープラス、Netflix）
7．『The Bear』（『一流シェフのファミリーレストラン』）（ディズニープラス）
8．『セヴェランス』（Apple TV+）
9．『ロシアン・ドール：謎のタイムループ』S2（Netflix）、『アンダン 〜時を超える者〜』S2（Prime Video）
次点．『ステーション・イレブン』（U-NEXT）

　パンデミックを経て劇場公開されるアメリカ映画の数が激減した今、日本のスクリーンで上映される作品を追っているだけでは現在の作家がどのように時代を捉えているのか全くキャプチャーできないと言っても過言ではなく、真に観るべきものの多くは幾度目かのピークを迎えたTVシリーズにあった。1人の人間が追いかけるには到底無理な作品量で、見落とした作品リストの方が長大になりそうなところだが、ならば点と点をどのように結ぶかが年間ベストを作る意義だろう。

　アメリカでは中間選挙が行われた今年、多くの作品は政治的なメッセージを含み、根底にはいよいよ極まった分断と対立への危惧が滲んでいた。大ヒット作のスピンオフである上位3本がいずれもオリジナル作品の前日譚であることは偶然ではないだろう。ここには歴史と個人の因果関係を紐解く内省がある。『ベター・コール・ソウル』はしがない弁護士ジミー・マッギル（ボブ・オデンカーク）こそが14年間に及ぶサーガの中心人物であったことを描き、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は赤と青ならぬ翠と黒の派閥に分かれて内戦が勃発、数百年に渡って続いた王朝が崩壊へ向かう。『キャシアン・アンドー』にジェダイもフォースも姿はなく、ファシズムを前に分裂する自由主義者たちと、国家にも政治にも頼らない生活者たちが言葉によって団結するさまが描かれた。

　僕たちはいったいどこから来たのか？　個人史から民族の悲劇のルーツ、歴史的転換点に到達する作品も相次いだ。『Pachinko パチンコ』は1920年代の朝鮮半島に始まり、日本に渡った祖母と1980年代の東京に暮らす孫を韻を踏むかのように物語っていく。“ガイジン”と呼ばれ続けた主人公の義憤に火がつく『TOKYO VICE』といい、外から描かれた日本はこれまでになく核心をついていた。姉妹編のような『ロシアン・ドール』と『アンダン』の2作品は共にタイムトラベル能力で家族史を解き明かし、第2次大戦前夜のヨーロッパに帰結する。どちらもロシアのウクライナ侵攻から間もない4月のリリースだった。