『もののけ姫』宮﨑駿の“声”へのこだわりを紐解く 最新作にも通じる大物俳優の声優起用

『もののけ姫』宮﨑駿の声へのこだわり

 10年ぶりとなる長編アニメーション『君たちはどう生きるか』が好スタートを切った宮﨑駿監督が、1997年に手掛けた作品が『もののけ姫』だ。7月21日に日本テレビ系の『金曜ロードショー』でTV放送されるが、『君たちはどう生きるか』をすでに観た人は、大物俳優の意外なキャスティングによる強烈なキャラクター造形という部分で、共通したところを感じるかもしれない。

 『君たちはどう生きるか』のエンドロールにずらりと並ぶ大物出演者の名前には驚かされた。菅田将暉に木村拓哉に木村佳乃に柴咲コウに國村隼に火野正平。誰がどの役を演じたかは正式には示されていないが、主人公の牧眞人という少年の父親を演じたのが木村拓哉で、父親の再婚相手となる夏子は木村佳乃だろうと想像はついた。

 中でも菅田将暉は、アオサギという役で鳥から醜いおっさんへと変化を遂げては、狡猾そうな声音で眞人にちょっかいを出すコミカルな演技をやりとげた。『鎌倉殿の13人』(NHK総合)で源義経を演じるようなイケメン俳優を、なぜこの役にといった疑問も浮かぶが、実は『もののけ姫』に登場して、アオサギのような策略を巡らせるジコ坊にも、同じような疑問があった。演じたのは小林薫だ。

 日本の東方にある集落でタタリ神の呪いを受けたアシタカという名の少年が、呪いを解く方法を求めて西へと向かう途中に出会った僧形の男がジコ坊。鉄を生産するタタラ場を取り仕切るエボシ御前に味方しているようで、裏でいろいろと画策している。そのジコ坊に小林薫が起用されたことと、アオサギに菅田将暉が抜擢されたことにはおそらく同じ理由がある。そのキャラクターに必要な声であり演技だったからだ。

 『君たちはどう生きるか』で大おじに火野正平、インコの王に國村隼、ヒミにあいみょんが起用されたのも同じで、たとえ大物俳優でも気鋭のシンガーソングライターでも、その役に必要な声だから演じてもらう。宮﨑駿監督の作品で貫かれているそうした意思が、極端なまでに発揮された作品が『もののけ姫』だ。美輪明宏に森繁久彌という日本の芸能界の重鎮が声の出演に名を連ねていたのだ。驚きは『君たちはどう生きるか』の比ではない。

 美輪明宏が演じたのは、巨大な犬神のモロの君だ。筆者が取材した完成披露会見で美輪明宏は、「はじめは姫をやるのかと思っていたら化け物だった」「300歳は自分の歳に1番近い役」と言って笑いを誘っていたが、横で聞いていた宮﨑駿監督は内心冷や汗ものだったかもしれない。1997年の宮﨑駿監督はまだ56歳で、ようやく名前が知られはじめたところ。頼む方も受ける方も勇気がいっただろう。

 結果として美輪明宏が演じたモロの君は、人間の少女であるサンを育てる優しさを持ちながら、自然を冒す人間に対する厳しさを持った巨大な犬神という、『もののけ姫』でも印象に強く残るキャラクターになった。森繁久彌が演じた猪神の乙事主も、威厳と頑固さを漂わせる重厚なキャラクターとなった。宮﨑駿監督作品でも飛び抜けた存在感を持って並び立つキャラクターかつキャストを、初めて『もののけ姫』を観る人がいたらしっかりと目に焼き付け、耳に刻んでほしい。

 タタラ場を取り仕切るエボシ御前も、『もののけ姫』で強い印象を残すキャラクターだ。まず美しい。そして強い。製鉄の仕事が周囲の自然を壊しているからといってサンが襲撃してきても鉄砲を撃ち、刀を振るって寄せ付けない。一方で、時代的には弱者だった女性たちをとりまとめ、重病人の面倒もみながら鉄の生産と交易を続けてタタラ場を盛り立てていく。

 自然と敵対してでも文明を守り、人々を幸せにしようと自分の道を進むエボシ御前は、『風の谷のナウシカ』に登場するクシャナの再来。ナウシカよりもクシャナの方が好きといったファンなら絶対に惹かれる存在だ。演じたのは俳優の田中裕子で、快活な演技を声に乗せて聞かせてくれる。

 そんなエボシ御前と剣をぶつけあうサンの方はといえば、宮﨑駿監督作品では珍しい暴力的なヒロインだ。仮面をつけて毛皮をまとい、犬神に乗って突っ込んでくるわ、銃で撃たれた犬神の傷口から血を吸い出し、顔を血塗れにするわといった、野性味あふれた姿を見せてくれる。

 戦闘能力も高く、エボシ御前と直接対峙した際に見せるアクロバティックな動きは、宮崎アニメでも屈指の迫力。見逃すなと言っておこう。サンを演じた石田ゆり子はお嬢様然とした雰囲気を持つ俳優だが、サンの役では野性味の中に高潔さを漂わせて役に奥行きを持たせている。

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