『もののけ姫』宮﨑駿の“声”へのこだわりを紐解く 最新作にも通じる大物俳優の声優起用

『もののけ姫』宮﨑駿の声へのこだわり

 脇役の重鎮に、ライバルに、ヒロインに注目が集まると、主人公はいったいどこに行ってしまったのかという話になる。つまりはアシタカだが、ジコ坊を侍から助けたり、サンとエボシ御前の戦いに割って入って止めたりと、高い戦闘力を持ちながらも先頭に立って大勢を導く英雄といったといった雰囲気は持たない。エボシ御前のしてきたことを否定せず、かといってサンが自然の中に生きようとすることも認めるといったスタンス。カッコいいことはカッコいいが、どこかどっちつかずのところがある。

 エンターテインメントでは、悩みを抱え迷いながら進んで行く姿に、同じように迷っている自分を重ねていっしょに考えることができるキャラクターの方が共感を集めやすい。『君たちはどう生きるか』の眞人がまさにそうしたキャラクターで、だからこそ主人公然としている。

 アシタカは、半ば裁定者としてエボシ御前やサンが繰り広げる戦いを眺めている。そこが印象を薄くさせる理由かもしれないが、そんなアシタカでも、最後の場面ではピンチにおちいったタタラ場を救うために、サンと共に荒野をかけ、悪巧みをするジコ坊を説得し、命の危険も省みないで自分ができることをしようとする。冒険の途中で学んだことを活かして、自分に出来ることをしようとするところは、『君はどう生きるか』の眞人にも見られるもの。そうやって成長し、決断をする主人公が宮﨑駿監督は、やはり好きなのだろう。

 アシタカを演じた松田洋治は、『風の谷のナウシカ』のアスベルに続くキャスティングだが、これを最後に宮﨑駿監督作品には出なくなる。タタラ場で働く女性のひとりで、アシタカにいろいろと説明をするトキを演じた島本須美も、『ルパン三世 カリオストロの城』のクラリスや、『風の谷のナウシカ』のナウシカを演じた宮﨑アニメにおけるミューズのような存在でありながら、これ以降は出演が途絶える。

 声優自体をほとんど起用しなくなり、俳優へとシフトしていった理由はどこにあるのか。宮﨑駿監督のキャラクター造形の極意とともに、キャスティングの本意を探る上で『もののけ姫』は重要な位置づけにある作品と言えそうだ。

■放送情報
『もののけ姫』
日本テレビ系にて、7月21日(金)21:00〜23:44放送
※放送枠50分拡大 ※ノーカット
原作・脚本・監督:宮﨑駿
音楽:久石譲
声の出演:松田洋治、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、森光子、美輪明宏、森繁久彌ほか
©1997 Studio Ghibli・ND

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