『【推しの子】』は過去との決着の物語だ 有馬かなのタイトル回収で考える“推し”文化
TVアニメ『【推しの子】』の最終回となる第11話「アイドル」では、熱気あふれるアイドルフェスで新生「B小町」がいよいよ初ステージに立ち、楽曲「サインはB」「STAR☆T☆RAIN」の新バージョンを披露。順調かのように見えた初ステージだったが、センター・有馬かなの表情は曇っていた。
インフルエンサーのMEMちょ目当ての客で会場が埋め尽くされた中、ルビーは亡きアイを思わせる笑顔で会場を盛り上げる。しかし、有馬かなを応援するサイリウムの光は見当たらず。2人に対する劣等感を感じる有馬に、胸が痛む場面だった。
しかしそんな有馬の心を照らしたのが、アクアが真っ直ぐに掲げた白いサイリウムだ。3色のサイリウムを器用に扱いながらオタ芸を披露するアクアを見て、「アンタの推しの子に……なってやる!」と有馬はアイドルとしての決意を固める。この思わず鳥肌が立つほど緻密に練られた有馬の「【推しの子】」のタイトル回収に、胸が熱くなったファンも多いだろう。最終回「アイドル」は、キラキラと輝く有馬の眩い笑顔で飾られた。
最終回を終えて改めて『【推しの子】』が描いていたものを考えると、サスペンス要素や芸能界の光と闇などのお仕事アニメとしての一面を横断する形で、“自分の過去との向き合い方”が描かれていたように感じる。前世をもったルビーやアクアはもちろん、天才子役としての自分の影と常に戦い続けてきた有馬や、アイドルという夢を年齢によって逃し続けてきたMEMちょも、過去の自分から一歩踏み出す勇気を探していた。そして、各キャラクターの過去を打ち破る鍵となるのが「アイドル」の存在、またはアイドルという職業そのものだったように思う。
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理由は違えど、今回の第1期のメインとなる登場人物はアイドルによって人生を狂わされたキャラクターたちでありながら、アイドルによって希望を得ていた者たちなのかもしれない。役者の黒川あかねでさえ、人生を変えた恋リアの演技のモデルは「アイ」ーーつまりアイドルを元にしていた。そう思うと、最終話の「アイドル」というタイトルもより深みを帯びて感じられてくるのではないか。