『【推しの子】』が海外でヒットした要因を考察 アニメ受け入れ土壌に変化が?

 『【推しの子】』は明らかに、4月期に放送されたアニメで最も注目された作品だ。赤坂アカ(原作)と横槍メンゴ(作画)のタッグによる原作コミックは『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて連載中、「次にくるマンガ大賞2021」の首位を獲得したこともあり、映像化前から何かと話題になっていた本作。しかしここにきて特に気になるのが、海外での盛り上がりだ。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

 はっきりと明確に海外人気が証明されたのは、YOASOBIが手がけた本作のオープニングテーマ「アイドル」が6月10日付の米ビルボード・グローバル・チャート“Global Excl. U.S.”で1位を獲得したことである。日本語で歌唱された楽曲では史上初の出来事であり、この快挙そのものが『【推しの子】』のバズを体現していると言ってもいい。このチャートはアメリカを除く国際チャートであるものの、アメリカを含めた“Global200”でも6週連続ランクイン、最高で9位を記録した。5月26日には英語版の「idol」も公開。ビルボード・チャートはそれぞれの楽曲ではなく、他の言語で歌われた曲やアレンジも合算されて結果に反映されるため、これを受けて一時期は“Global200”で10位になっていた本楽曲が、再び9位にランクアップしたのだ。YOASOBIの楽曲は過去にも「夜に駆ける」の英語版が作られていたものの、今回はそれ以上に早いアップロードとなり話題性を高めるものとなった。ただ、ここで注目したいのは「YOASOBIの楽曲が」ではなく、「『【推しの子】』のオープニング曲が」──つまりアニメソングとしての「アイドル」がヒットチャートの1位を獲得した現象そのものである。

 海外の日本アニメ人気は今に始まったことではない。視聴環境がCrunchyrollやNetflixなどの配信サービスのおかげで以前より整ってきてはいるが、それ以前からも『進撃の巨人』や『ドラゴンボール』、『ONE PIECE』に『NARUTO』といくらでも人気の高い作品が挙げられる。しかし、重要なのはそれらがたとえ人気だったとしても、今回のようにその作品の曲がチャートで首位を獲ったことはないのだ。ではなぜ、『【推しの子】』がそのように日本アニメ史的な観点でも海外で大ヒットしているのか。相互に影響し合っている、その要因について考えてみる。

「リアクション文化」の全盛期、日本アニメ視聴層の一般化

 先に触れた楽曲「アイドル」も日本で“歌ってみた動画”が流行っているように、海外でもこの楽曲にリアクションをする動画がかなりの数、投稿されている。というより、もともと「リアクション動画」というのは欧米圏のYouTuberにとってここ数年でも最も人気の高いコンテンツの一つだ。その人気のきっかけは『ウォーキング・デッド』や『ゲーム・オブ・スローンズ』などの話題ドラマを観ながら、視聴者が随時(時には大袈裟な)リアクションを取ったり感想を話したりするタイプの動画が流行ったことにあると感じる。その頃にもアニメのリアクション動画をアップしているYouTuberはいたが、一般層は彼らのような熱量でアニメを観ることがなかったので、一部のファン同士で盛り上がるクローズドなコンテンツだった。以前は明確に「アニメを観る人」と「そうでない人」が分かれており、後者の方が圧倒的に多数派だったのだ。

 しかし、その中でもアニメに限らず同チャンネル内でドラマや映画などの幅広い作品をリアクションするYouTuberたちの活動によって徐々に変わってきた。もともとアニメ好きじゃなくても“リアクターのファン”が彼らのコンテンツを観るために、アニメを観はじめたのだ。すると今度はアニメ視聴者が増えたことで、「アニメリアクション動画」の視聴数が底上げされる。一般的なYouTuberたちはその人気ぶりに気づき、ビューを稼ぐために人気チャンネルの真似をして「アニメリアクション動画」を上げるようになる。このサイクルにより、10年前に比べて明らかにYouTubeなどを通してアニメ視聴者層が広がったのだ。

 加えて、コロナ禍で世界中の人々がロックダウン状態にあったことも、この広がりを助長したように思う。筆者の私自身も、自分が観ている作品を誰かがリアクションしている動画を観るのが大好きだ。「人の反応なんてどうでもいい」という人もいるかもしれない。しかし、リアクション動画とはそれ以上に孤独を打ち消すサークル的な場としての役割を担っていると同時に、他者の考えや自分と違う価値観に触れられる素敵な機会のように感じる。

 そういった背景の中、ここ数年は『呪術廻戦』や『SPY×FAMILY』、『チェンソーマン』などを筆頭とするアニメ作品が海外のリアクターによって取り上げられ、多くのファンが生み出されてきた。なかでも最近はアニメのOP&ED曲をリアクションするものが多く、『【推しの子】』においても「ラッパーが『アイドル』を聞いてみた」「作曲家が『アイドル』を解説」などと言った、アニメ畑ではない人の観点で語られる動画が人気を博している。彼らはコメント欄でファンから「アニメも観て!」と頼まれるので、結局アニメ本編のリアクション動画を出していく流れだ。こういった非アニメファンのリアクション動画は今本当に注目されていて、それもまたアニメ界隈に入っていくことに興味を持つ人の多さを物語っている。

 実際にアメリカを中心にアニメを観ること自体が割と一般的なことになってきているへの実感を、YouTuberのChibi Reviews氏は自身の動画内で「テネシー州に住んでいるけど、Walmart(スーパー)に行くとマジなアニメTシャツを普通に着ている人が結構いるし、グッズも販売されている。僕が住んでいるのは田舎で、小さい街でアニメグッズが売られているのだとしたら大都市や世界規模では想像がつかないくらい」と語っている。つまりそれほど今、アニメの価値が高まっているのだ。

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