『風間公親-教場0-』木村拓哉と染谷将太の見事な対比 “死”が引き出した特別な瞬間

『教場0』木村拓哉と染谷将太の見事な対比

 6月12日に放送された『風間公親-教場0-』(フジテレビ系)は、最終回を目前に控えた第10話。風間(木村拓哉)と遠野(北村匠海)を刺した十崎(森山未來)によるものと思しき新たな強殺事件が起き、緊急配備が敷かれるなかで、風間と中込(染谷将太)は変死体が発見された民家へと向かう。そこで待ち受けていたのは、もちろんこれまでの流れ通り、“道場生”である中込が抱えている問題とリンクする哀しい事件である。とはいえ今回は、冒頭に事件発生時の導入が描かれないという点で、これまでとは少し異なる雰囲気を放つ。

 70代の女性・仁谷清香(竹下景子)が料理中に倒れ、フライパンの上には炭化した魚のようなものが残っていた。遺体を発見したのは22歳年下の夫・継秀(岡田義徳)。継秀の供述によれば、清香は認知症を患っていたという。継秀は清香の死亡した時刻に、仕事相手と打ち合わせを兼ねて食事をしていたというが、いつもと違ってコース料理を頼んでいたことに風間は目を光らせる。一方、自身も認知症の母親との生活に悩んでいる中込は、継秀に自分を重ねていく。なぜ清香は穏やかな表情で息絶えていたのか。中込は現場の写真を再確認するうちに、ある違和感に気が付くのである。

 「被害者が認知症であることにつけ込んだ卑劣な犯行」と、劇中では形容される。毎週水曜日に決まって清香が鰆を焼くこと。中込の母と同様に、何かをしている最中に他のことを頼まれるとそれまでしていたことを忘れてしまうという認知症に比較的よく見られる症状。それらを巧みに利用して、継秀は清香を殺めたというのが今回の事件のあらましだ。とはいえ継秀の行動といえば、自宅の冷蔵庫をあえて散らかし、清香が料理をしているタイミングで冷蔵庫の片付けを依頼する電話を入れただけ。たしかに清香は認知症であるという前提があるにしても、このようにうまく事故を誘発(しかもフッ素樹脂加工のフライパンの空焚きで生じるフッ化水素ガスの吸引が死因である)し、かつ彼を殺人罪に問うことができるのかという点には少々疑問が残る。

 明確な殺意があっても、実行行為が存在していない/あるいは穴が多いゆえ、因果関係があったかどうかも少々あやふやなところ。それらを踏まえると、「証拠は犯人の心の中にある」という劇中の台詞が示すように、今回のエピソードは極めて“感情的”な部分に重きを置いたストーリーであったというところだろう。中込が“人情デカ”となって、自身の境遇を語りながら被疑者の自白を引き出す。前回の事件のような少々トリッキーな謎解きと比べるとドラマティックな方法論ではあるが、ミステリーとしての甘さはどうしても拭いきれず、もっぱら終盤に待ち受ける展開を引き立てるための事件であったという印象だ。

 感情をコントロールできずに暴走していた中込が自制心を得て、母と妻との食卓を穏やかな空気で包む一方で、中込とは対照的に強固な自制心によって制御されてきた風間が、遠野の死を目の当たりにして一心不乱に竹刀を振り続ける。そして同様に悲しみのやり場を失う幸葉(堀田真由)の姿も然り。“死”というものを軸にして引き出される人間的な感情は、前半の事件の結末と後半の展開のどちらにも共通している。いずれにせよ、暗闇の道場で“右目”から流れ落ちた涙は、風間の人間らしさがあらわれた、このドラマでも稀な特別な瞬間であったといえよう。

■放送情報
フジテレビ開局65周年特別企画『風間公親-教場0-』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:木村拓哉、赤楚衛二、新垣結衣、北村匠海、白石麻衣、染谷将太ほか
原作:長岡弘樹『教場0 刑事指導官・風間公親』『教場X 刑事指導官・風間公親』(小学館)
脚本:君塚良一
演出・プロデュース:中江功
プロデュース:渡辺恒也、宋ハナ
音楽:佐藤直紀
主題歌:Uru「心得」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/kyojo0/
公式Twitter:@kazamakyojo
公式Instagram:@kazamakyojo

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