染谷将太の円熟みが増す演技アプローチ 『教場0』『サンクチュアリ』での“オーバーアクト”
放送中の月9ドラマ『風間公親-教場0-』(フジテレビ系/以下『教場0』)での染谷将太の姿を見ていて、「なるほど、こうきたか」と思った。そう、全世界で配信され広く話題になっているNetflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ -聖域-』(以下、『サンクチュアリ』)での役どころと真逆だからである。彼の実力は知っていたつもりだが、久しぶりにその妙味を堪能できているところ。これに同感してくださる方は多いのではないだろうか。
『教場0』で染谷が演じているのは新人刑事の中込兼児。例によって彼も、刑事指導官・風間公親(木村拓哉)の“風間道場”でしごかれるわけだが、これまでに登場してきた新人たちとは大きく違う。冷徹な風間からのプレッシャーにより胃を痛める者などいたものだが、中込に風間の厳しさはほとんど通用しない。もともと粗暴な彼は、鍛え直してもらうために“風間道場”へと異動してきた。平気で被疑者に手を挙げ、捜査現場ではタバコをスパスパ。彼の高圧的な態度はほかの警官からも煙たがられ、非難の対象に。風間に対して舌打ちまでする超問題児なのである。
いっぽう、相撲業界を舞台とした『サンクチュアリ』で染谷が演じているのは、新米力士であり、のちに呼出へと転身する青年・清水。彼は誰よりも相撲を愛する若者だが、体格に恵まれず力士の道をあきらめることに。そのかわり、自分よりもずっとずっと可能性のある本作の主人公・小瀬清(一ノ瀬ワタル)を励ますサポート役に徹し、やがて呼出という違うかたちで相撲業界と関わろうとするのだ。相撲への情熱が人一倍強く、温厚で心優しい青年である。
中込役も清水役も、どちらも染谷の演技は分かりやすい。「オーバーアクト」とさえいえるものかもしれないが、これは彼が自身の立ち位置を完全に把握しているからこそ成立しているように思う。両作にはアクの強い主人公がいる。『教場0』の風間公親も、『サンクチュアリ』の小瀬清も、作品のカラーを単身で決定づけるキャラクターだ。彼らを中心としたときに、周囲の登場人物を演じる俳優たちは自身の立ち位置を明示しなければならない。キャラクターの濃度が薄ければ主人公たちを前に霞んでしまうし、周囲までがあまりにも濃いものだと視聴者は胃もたれを起こしてしまうかもしれない。主人公が強烈な個性の持ち主だからこそ、彼らと行動をともにする存在を演じる者たちはそれ相応の濃度で、自身がどこに立っているのか、作品においてどんなキャラクターであるのかを、視聴者に的確に伝えなければならないわけだ。風間や小瀬を相手にするならば、「ナチュラルな演技」ではなく「オーバーアクト」で挑む者がいて当然である。つまりこの2作における染谷の役どころは真逆なものの、演技はよりアクロバティック的なのである。