アーノルド・シュワルツェネッガーの魅力が全開! 『FUBAR』は今こそ観たい娯楽作
『FUBAR』はアーノルドの功績をトリビュート
Netflix最新作ドラマ『FUBAR』は初のドラマ主演作品ということで配信前から大きな話題だった。物語のメインは、武器商人を追うCIA諜報員たちの活躍なのでシンプルだが、諜報員のグループの中にアーノルド演じるルークの娘がいて、しかも親子関係は拗れているからややこしい。チームから外せば良いと思うが、親子して極めて優秀なために周囲のサポートで関係を修復しつつミッションに挑むことになる。
今は銀幕スターもドラマにも出演するが、少し前までドラマ俳優と映画俳優には雲泥の差があったといっても過言ではない。彼の新作を心待ちにして劇場に通ったファンからすると、アーノルドの新作が、ドラマで、配信視聴する日が来るなんて非現実的だと言える。
だが、『FUBAR』を見始めるとなぜドラマにする必要があったのかがわかる。というのも、過去作をトリビュートしていて、どこかで見た設定のオンパレード。個々の要素や設定を1本の映画に詰め込んだら破綻は免れない。全8話構成はトリビュートを楽しんでもらうためなのだろう。
例えば、『プレデター』の象徴的なセリフである「チョッパー」に始まり、『ツインズ』の初体験シーン、『ターミネーター』の銃を構えるシーン、『イレイザー』のパーティーバルーンシーンが出てくる。『トゥルーライズ』の家族にすら秘密にしてCIAの工作員をしている設定や、『エンド・オブ・デイズ』の2000年問題についての言及、コメディ作品で共演し実生活での親交も深いダニー・デヴィートに関する言及には思わずにやけてしまうはず。『ツインズ』の設定を彷彿させる凸凹双子の登場も、ファンにとっては嬉しいサプライズだ。
作品に登場する数字にもお楽しみが隠されている。事件のケース番号は、『キンダガートン・コップ』のバッジナンバーや『ラスト・アクション・ヒーロー』のライセンスプレート、『ターミネーター』のシリアルナンバーが使われている。コアなファンなら気づくかもしれない。
そうそう、アーノルド率いるCIAメンバーが追うボロは、『ターミネーター:ニュー・フェイト』でRev-9を演じたガブリエル・ルナ。そして『トゥルーライズ』で相棒役だったトム・アーノルドが、カメオ出演している。
本作は親子間の関係を描いているのだが、それはゾンビに変わっていく娘を守り続ける父親を演じた『マギー』(2015年)を彷彿とさせる。本作がコメディタッチなのは、彼がコメディをこよなく愛しているからだろう。アイヴァン・ライトマン監督と共にコメディ映画を3本撮ったのはアーノルドが自ら売り込みにいったから実現したし、本人も1992年にラブ・コメディ映画『キッチン・ウォーズ~彼女の恋は五ツ星~』を監督している。
娯楽作品を見直す万人受けのドラマとして
こうやって書くと、『FUBAR』はアーノルドのコアなファンしか楽しめないのかと思われそうだが、そんなことはない。忙しい毎日に安定した笑いを与えてくれる、万人受けのドラマだと筆者は思っている。
すでに書いたが、ストーリーは基本的に単純明快。武器商人を捕まえるために工夫を凝らして潜入捜査をするが、昨今の展開が目まぐるしい映画と異なり、ストーリーを理解するために頭をフル回転させる必要がない。カメラワークもカット割りも速すぎず、やっていることがちゃんと理解できる。中毒性がありすぎるわけではないので、見始めたら最後、次の日に支障が出るわけでもない。
こうやって書くと、なんだか貶しているように受け止められるかもしれないが、違う。筆者は『FUBAR』のような作品を待っていた。
ここ数年ほど、仕事や勉強で疲れた頭でも安心して楽しめる作品は減少傾向にあり、エンターテインメントの存在意義が問われていた。コミュニケーションツールのひとつとしてコンテンツを消費する人が増え、娯楽が「観たいもの」から「話題についていくために観なければならないもの」へと変化してきていると感じる。だが、そのコンテンツは、難解で、テンポが速く、中毒性がある。
オールドスタイルな『FUBAR』は、その真逆を向いた気軽に楽しめる娯楽だ。観てもらえれば、配信2週目になっても各国のNetflixで上位になっている理由がよくわかると思う。きっと多くの人々がこういう娯楽を待っていたのだ。
■配信情報
『FUBAR』
Netflix独占配信中
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、モニカ・バルバロ、ミラン・カーター、ガブリエル・ルナ、フォーチュン・フィームスターほか
©2022 Netflix, Inc.