早くも「2023年ベスト」の声も 『aftersun/アフターサン』の“エモさ”に絶賛の声相次ぐ
映画館を後にしてから、何度も考えたり、ふとした瞬間に思い出したりしてしまうような映画はないだろうか。娘と父のひと夏の想い出を描いた、現在公開中の『aftersun/アフターサン』がまさにそういう映画だ。
「2023年ベスト確定」「生涯の一本」「すさまじい監督デビュー作」「大傑作」などSNSでも絶賛の声が相次いでいる本作。監督・脚本を務めたのは、1987年生まれのシャーロット・ウェルズ。長編初監督作にして、240を超える映画賞にノミネートされ、80を超える受賞を果たしている。
新人監督による、日本では馴染みの少ない俳優の出演作が、なぜ多くの人を惹きつけてやまないのか。それは冒頭に記したような、何度も思い返してしまうようなエモーショナルさがあるからではないだろうか。需要側も供給側も、誰が観ても楽しめるような「わかりやすさ」を意識するようになった昨今。『aftersun/アフターサン』はそういった潮流には乗らず、観客に解釈の余地を与える。
本作で描かれるのは、11歳のソフィと父カラムがトルコのリゾート地で過ごす夏休み。よくあるバカンス映画と趣が異なるのは、父娘2人のその旅行が20年前の出来事で、現在31歳となった娘ソフィがビデオカメラで撮った映像を再生するような形で物語が展開していくこと。
「11歳の時、将来は何をしてると思ってた?」
20年前、31歳の誕生日を目前に控えた父カラムへソフィが投げかけた何気ない問いかけ。ビデオカメラに映るカラムは、カメラを見つめたまま答えようとしない。それどころか、「撮影をやめろ」と不機嫌そうにソフィにビデオカメラを止めるように言う。この映画においても重要な意味を持つ、その質問に対するカラムの回答は、ビデオカメラには収まらず、ソフィの記憶の中に刻まれる。そして我々観客は、映画を通してその答えを知ることになるのだ。
いつも隣で一緒に楽しく過ごしていたはずだった父と娘。些細なことがきっかけで喧嘩をすることもあったけれど、気づけば笑顔で元通りになっていた。当時はそう思っていたけれど、大人になって初めて気づくこともある。第95回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたポール·メスカルの繊細な演技も相まって、カラムのことをもっと深くまで知りたいと思ってしまう。
鑑賞者からは「映画館の座席から立ち上がれなかった」「トイレに駆け込んで泣いた」「ヒリヒリとした“日焼け痕”が残る」「心のやわいところにぶっ刺さる」「永遠にこの物語が続けばいいのに」といった、熱度の高い感想が続々と寄せられている本作。未見の人にはぜひ、この映画のなかなか抜け出せない“余韻”に浸ってみてほしい。
■公開情報
『aftersun/アフターサン』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほかにて全国公開中
監督・脚本:シャーロット・ウェルズ
出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール
プロデューサー:バリー・ジェンキンス
配給:ハピネットファントム・スタジオ
後援:ブリティッシュ・カウンシル
2022年/イギリス·アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/101分/原題:aftersun/字幕翻訳:松浦美奈/映倫:G
©Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
公式サイト:happinet-phantom.com/aftersun/
公式Twitter:https://twitter.com/aftersunjp