『かしましめし』は“距離感”と“関係性”の物語だった 永遠じゃないからこその尊さ

『かしましめし』は距離感と関係性の物語

 28歳という3人の年齢設定が絶妙だ。美大を卒業して、社会に出て5年。尖っていたり、がむしゃらだった「青い」季節が終わり、そろそろ自分のキャリアや人生について考えはじめる年頃。そんな折に、公私にわたる大きな受難が彼らの身にふりかかる。目の前が真っ暗になるなか、ふと隣を見たら、灯りを抱えてそっと側に立ってくれる人がいた。話を聞いて、頷いてくれる人がいた。このドラマは、どんな人の人生にも一度は訪れるであろう、「羽を休めて、力を蓄えるひと時」の記録といえる。

 その中心にあって、彼らの鎹(かすがい)となるのが「料理」というのがいい。千春は料理が好きだけれど、それはナカムラと英治が美味しく食べてくれるから。

「1人だと栄養あるもの食べるの違う気がしてさ。コンビニでジャンクフードばっかり買っちゃうんだ。罰みたいに」

 千春は、トミオに寄り添ってあげられなかった自分を責めながら生きていた。それは、英治とナカムラとて同じだろう。口にこそしないけれど、3人の心には「絶対に第二のトミオを生み出してはいけない」という無言の、固い“契り”が根を張っていることだろう。そのトミオが3人を呼び寄せたのだ。そして彼らは今日も一緒にご飯を食べる。「料理」とはすなわち、「関係性」を表すものなのかもしれない。

 本作は「関係性の物語」と前述したが、これは、自分自身との「関係性」の話でもある。不器用な3人が互いにそっと背中を押しあいながら、こんがらがった「自意識」をほどいていく。ほどよい距離感と思いやりが介在する、ちょうどいい3人の関係性があったからこそ、千春、ナカムラ、英治は、それぞれ自分と向き合い、前に進むことを決意する。

 無理に笑わなくてもいい。「あるべき私」でなくていい。あなたらしくあればいい。そう互いに声をかけ合いながら、新しい「自立」を築こうとする3人の姿が眩しい。

 第7話では千春と蓮井(渡部篤郎)の関係に進展の兆しがあり、さらに千春の母・紗栄子(渡辺真起子)が留学先から突如帰国し、この3人の暮らしが終わりを迎えそうな予感が。テレビの前の視聴者も寂しくてたまらないが、鍋と一緒で、始まりがあれば終わりがある。彼らの「かしまし」は永遠じゃないから、切ない。永遠じゃないから、尊い。最終回では、羽を休めて力を蓄えた3人がどのように前に進むのか。きっと最高のエンディングが待っているに違いない。

■放送情報
ドラマプレミア23『かしましめし』
テレビ東京系にて、毎週月曜23:06~23:55放送
Paravi、Leminoにて、地上波放送終了後配信
原作:おかざき真里『かしましめし』(祥伝社フィールコミックス)
出演:前田敦子、成海璃子、塩野瑛久、倉悠貴、若林拓也、工藤綾乃、渡部篤郎
脚本:玉田真也、今西祐子
監督:松本佳奈、ふくだももこ
チーフプロデューサー:大和健太郎(テレビ東京)
プロデューサー:藤田絵里花(テレビ東京)、白石裕菜(ホリプロ)、宮森翔子(ホリプロ)
主題歌:KIRINJI 「nestling」(syncokin)
エンディング:kojikoji「頬にひと口」(A.S.A.B / Broth Works)
音楽プロデューサー:福島節
音楽:東川亜希子(赤い靴)
フードスタイリスト:飯島奈美
制作:テレビ東京、ホリプロ
製作著作:「かしましめし」 製作委員会
©︎「かしましめし」製作委員会
公式サイト: https://www.tv-tokyo.co.jp/kashimashimeshi/
公式Twitter:@tx_kashimashi
公式Instagram:@tx.kashimashi

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