『かしましめし』は“距離感”と“関係性”の物語だった 永遠じゃないからこその尊さ

『かしましめし』は距離感と関係性の物語

 湯気のたつ美味しそうな料理と、3人の「ワチャワチャ」が視聴者を夢中にさせている『かしましめし』(テレビ東京系)が、5月29日に最終回をむかえる。おかざき真里の同名漫画を原作とする本作は、美大の同級生だった千春(前田敦子)、ナカムラ(成海璃子)、英治(塩野瑛久)の3人が、それぞれに挫折し傷つきながらも、互いにそっと寄り添いあい、美味しいものを作って、食べて、飲んで、暮らし、前に進んでいく物語。そっと寄り添いあう──この「そっと感」が、このドラマの真髄といえるかもしれない。これは「距離感」と「関係性」の物語である。

 千春は美大卒業後、憧れていたデザイン事務所「サワタリデザイン」に就職したが、経営者で有名デザイナーの沢渡(田村健太郎)からのパワハラに遭い、心が壊れてしまう。会社を辞め、引きこもりのような生活を送る千春だったが、何も考えずにただ手先を動かして没頭できる料理の楽しさに目覚めたことで、なんとか生きる力を絶やさずにここまできた。

 千春は、自殺した同級生で元カレのトミオの葬儀で、卒業以来会っていなかったナカムラと英治に再会し、2人を「家飲み」に誘う。その後も美味しい食事とお酒を囲んだ「かしましめし」の宴を重ねながら、会わなかった5年間の3人の来し方が、ぽつりぽつりと語られる。ここで彼らに辛い思い出を語らせたのは、「話したくなかったら話さなくてもいいよ」という、3人の間にある「優しい距離感」だった。

 化粧品メーカーの宣伝部でキャリアを積んできたナカムラは、同僚で婚約者の志村(白石隼也)に二股をかけられた挙句、浮気相手の女性が妊娠したことを告げられて婚約破棄に。さらには、志村の本社復帰を期に、窓際部署へと異動させられてしまう。その一件以来、異性と関係を構築することが怖くなってしまったナカムラは、同僚の田口(倉悠貴)と恋愛に発展するが、最後の最後で心を開くことができない。

 トミオの元カレで、千春とは“竿姉妹”の関係にあたる英治は、職場である広告代理店ではゲイであることをカミングアウトできない。デザイナーとして入社したのに、人当たりの良さを買われて営業に回され、毎日作り笑顔でやり過ごし、自分のやりたいことがわからなくなってしまった。さらに、同棲していた恋人の辰也(吉村界人)にさんざん振り回され、ボロボロになってしまう。

 そんな、人生最悪の出来事に見舞われた3人が集まって、共に暮らすようになる。美味しい料理と楽しいお酒、他愛もない会話を通じて、冷えた心に少しずつ温度を取り戻していく。3人は食事と同じように、感情を“シェア”することで、互いの心をさすり、背中を押す。

 相手にそうすることで、自分自身も気づきを得て、励まされるという「ポジティブな循環」が生まれていく。その過程が実にさりげなく、繊細に描かれている。3人のうちの誰もが「私は2人に助けられてばっかりだ」と感謝している。そうして共に暮らすうちに彼らは、だんだんと自分を取り戻していく。

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