サイレント映画から洋邦の貴重な名作まで 「新宿東口映画祭2023」注目作品を一挙紹介!

「新宿東口映画祭2023」注目作品を紹介

 新スポットが現れるなど盛り上がりを見せ、再開発も進んでいる、現在の新宿駅周辺。そんな駅の東口のすぐ近くには、大正時代から営まれ、100年以上の歴史が続いている映画館「新宿武蔵野館」、そして90年代を中心とするミニシアターブームの隆盛に寄与した歴史を持ち、2012年にリニューアルされた「シネマカリテ」があり、いまも多くの観客に親しまれている。

 「新宿東口映画祭」は、今年も5月26日から6月8日まで、2週間にわたって、この二つの映画館で開催される。乗降客数世界1位を誇り、東京最大のハブ駅である新宿駅に隣接した立地だけに、そこで開催される映画祭は、日本で最も足を運びやすい環境といえるのではないだろうか。これまで映画祭などの上映イベントに参加したことのない観客も、ぜひこの機会に、その楽しさを味わってほしい。

「新宿東口映画祭2023」キービジュアル

 2023年の「新宿東口映画祭」では“愛”をテーマに、古今の多彩なジャンルの作品が上映される。ここでは、そんなプログラムのなかでも、注目したい作品の紹介や、鑑賞のポイントを、いまの時代との繋がりを考えながら解説していきたい。

 「新宿東口映画祭」の大きな特徴は、「サイレント映画」がラインナップのなかに入っていること。「サイレント映画」とは、基本的にまだ映画に音声を同期させる技術が開発されていなかった時代の作品を指す。上映されていた当時は、劇伴などの音楽を劇場での生演奏で表現したり、ナレーションや登場人物の声の吹き替えなどを担当する「活動弁士」のパフォーマンス、そして画面上の字幕などによって物語の内容を観客に伝えていた。

 現在は、音楽や音声を録音したものをサイレント映像とともに上映することが多くなっているが、今回の「新宿東口映画祭」では、上映される「クラシックアニメ6本立て」と『思ひ出』、また提携企画として同時開催される「第三回カツベン映画祭」の全作品が、「活動弁士」、「楽士」が付いたかたちで楽しめる。

 サイレント作品は、古い時代の廃れた技術であるとして、現在の映画と比較するとつまらないものだというイメージを持つ観客が少なくないかもしれない。だが、サイレント作品に親しんでいるコアな映画ファンや評論家、研究者の間では、むしろ現在の音声付きの映画作品の方が、内容の説明をセリフや音に頼っているという点で、映像的な工夫をしなくなっているという見方がある。サイレント映画は、字幕での説明を極力抑えるために、俳優の演技や、カメラワークや美術などの演出部分によって、映像そのもので物語を見せるといった、より純粋な“映像表現”としての映画の魅力が味わえるのである。

『要心無用』(写真提供:マツダ映画社)

 このように言うと、難しい内容のものが多いのかと思われてしまいそうだが、じつはそうではなく、喜劇やアクションなどのジャンルが豊富で、映画ファンのみならず子どもでも楽しめる作品がひしめいているのが、サイレント時代でもある。今回「第三回カツベン映画祭」で上映される『要心無用』は、ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』やトム・クルーズの『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』などに引き継がれた、高層の建物でのスリルあるアクションの源流となっている。

 『要心無用』は、身体を張ったスタントアクションで話題を集めた、ハリウッドのスターであるハロルド・ロイドの代表作で、いま観ても凄まじく危険な高所アクションの数々に、身も凍るような体験が堪能できる。それだけでなく、そんな危なっかしい場面に必ずユーモアが含まれているところも見逃せない。ジャッキー・チェンやトム・クルーズ主演のアクション作品は、あらゆる工夫で多くの観客を楽しませようとする娯楽性にあふれているが、その意味でもロイド作品の魅力を引き継いできたといえるのだ。

『デブ君の漂流』(写真提供:喜劇映画研究会)

 今回の上映作品『デブ君の漂流』もまた、喜劇と活劇が組み合わさった内容だ。「ファッティ(デブ君)」という愛称を持つロスコー・アーバックルは、デイミアン・チャゼル監督の最新作『バビロン』でもフィーチャーされたと考えられる巨漢のスター俳優で、殺人罪に問われた経緯から表舞台から姿を消したが、裁判で無罪となって後に監督業に転身している。恋愛にまつわる陰謀から、海を漂流する危機に見舞われるデブ君のピンチにハラハラしてほしい。

『死滅の谷』(写真提供:マツダ映画社)

 サイレント期の巨匠監督の作品も上映される。今回上映の『死滅の谷』は、『メトロポリス』や『M』など不朽の名作を撮りあげたフリッツ・ラング監督の初期作で、誰にでも訪れる“死”を題材に、おそろしいまでに美学がみなぎった映像が映し出される。1921年の作品ながら特殊効果も素晴らしく、命を失った幽霊たちが透き通った身体のまま、死の世界へと赴くために連れ立ってカメラの手前に向けて歩いてくるシーンは、近年のデヴィッド・リンチ監督のドラマ『ツイン・ピークス The Return』の一場面とも共通している。

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