マーガレット・クアリーからマイキー・マディソンまで 『ワンハリ』出演俳優の躍進続く

第97回アカデミー賞で監督賞を受賞した『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督。授賞式の際、過去に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で同賞にノミネートされたクエンティン・タランティーノがオスカー像を手渡す立場にあったことは、今考えても非常に感慨深い。受け取ったあと、受賞スピーチでベイカーは以下の言葉を残した。
「クエンティン、もしあなたがマイキー・マディソンを『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にキャスティングしていなかったら、『ANORA アノーラ』は存在しませんでした」
ベイカーの言う通り、彼が、そして多くの映画ファンが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でマディソンを“見つけた”ことだろう。叫びながら刃物を振り回し、缶詰を顔面にくらって鼻を折って血まみれになり、それでも叫び続けながら地べたを這い、犬に噛まれ、さらに叫び続け、プールに落ちて浮上しても叫びながら発報し、最終的に主人公が持つ火炎放射器に生きたまま焼かれる女に目を奪われた。しかし、彼女だけが“原石”だったわけじゃない。今観返してみると「この人も出演していたのか」と驚かされるばかりの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。改めて躍進した若手スターを振り返っていきたい。
シンデレラストーリーを完成させたマイキー・マディソン
冒頭でも触れたマディソンは、実は“新人俳優”というわけではない。2013年デビューと芸歴は意外と長く、コメディアンのルイ・C・Kやプライムタイム・エミー賞受賞歴のあるパメラ・アドロン製作のドラマ『Better Things(原題)』にメインキャストとして出演している。長編映画にも出演歴はあったが、スクリーンデビュー作が2014年に撮影されたのに公開が2017年になってしまうなど、彼女のパフォーマンスが“埋もれていた”感は否めない。だからこそ、ポランスキー邸襲撃グループの1人を演じた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、自分が映っていないシーンでさえ叫び続ける彼女のコミット力全開の演技が多くの人の記憶に残ったのではないだろうか。

その“叫び”は『ANORA アノーラ』の劇中でも健在。男2人を相手に彼女が大暴れするシーンが構想の初期段階からあったと語るベイカーだが、やはりあのエネルギッシュなマディソンを自身の映画でも撮りたいと思ったのだろう。結果、本作は第77回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝き、マディソンは第97回アカデミー賞主演女優賞を受賞した。自身の演じたアノーラという役が成し得なかったシンデレラストーリーを、本人が掴み取ったのである。
個性派監督からラブコールが止まらないマーガレット・クアリー
そんなマディソンと同じくらい『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で注目を浴びたのが、マンソン・ファミリーをモデルにしたヒッピー集団の1人、プッシーキャット役のマーガレット・クアリーではないだろうか。彼女は他のヒッピーキャラクターと違って、劇中にたびたび登場し、クリフを演じるブラッド・ピットとの共演シーンも多かった。小悪魔な表情作りと、健康的な身体のプロポーションやバランス感が印象的だった彼女は、元モデルのポール・クアリーと女優のアンディ・マクダウェルの子だ。

しかし、いわゆる“ネポベイビー”と言わせないのは、彼女が本作に出演するまでに経験してきた努力や下積みがあるからだ。ニューヨークに拠点を置く、世界最高峰のバレエ団の一つであるアメリカン・バレエ・シアターや、プロフェッショナル・チルドレンズスクールでバレエをしたあと、ロンドンの王立演劇学校で演技を学び、ニューヨーク大学にも通ったクアリー。芸能活動はモデルから入り、2013年にジア・コッポラ監督の『パロアルト・ストーリー』でスクリーンデビューを果たした。日本の人気漫画を海外で実写映画化したNetflixの『Death Note/デスノート』にも主要キャスト(ミア・サットン役)として出演しているのだが、やはり彼女も『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でハリウッドに存在感を示したと言えるだろう。
その後、初の主演映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(2020年)を経て、『哀れなるものたち』(2023年)や『哀れみの3章』(2024年)とヨルゴス・ランティモス監督の作品に続いて出演。また、コーエン兄弟の弟イーサン・コーエンの初単独監督作『ドライブアウェイ・ドールズ』(2024年)でも主演を飾るなど、大ブレイク。その間、2021年にはNetflixシリーズ『メイドの手帖』で主演を務め、プライムタイム・エミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートもされた。そして『REVENGE リベンジ』のコラリー・ファルジャ監督の『サブスタンス』では助演を務め、やはりその類まれなる存在感を発揮している。
『ストレンジャー・シングス』と合わせて大躍進のマヤ・ホーク
“ネポベイビー”と言えば、イーサン・ホークとユマ・サーマンの娘であるマヤ・ホークも名前が挙げられる。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、そして同時期に配信された『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン3で一気にスターダムを駆け上がった。

彼女こそ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』以前はあまり目立った仕事をしていない。2017年にBBCのミニテレビシリーズ『若草物語』に出演した程度だ。もとよりソフィア・コッポラ企画のユニバーサル・ピクチャーズによる実写版『人魚姫』の主役に抜擢されそうな話もあったが、プロデューサーがより知名度のある俳優(クロエ・グレース・モレッツ)を推したことも含めコッポラは企画から離脱。そのままホークにとっても関係のない話になってしまった。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、ポランスキー邸襲撃グループの1人であるものの、最終的に襲撃を取りやめてその場を去るという印象的な役を演じたホーク。その後はジア・コッポラの監督作『メインストリーム』やウェス・アンダーソン監督の『アステロイド・シティ』、ブラッドリー・クーパー監督・脚本・主演の『マエストロ:その音楽と愛と』に出演。日本でも大ヒットした『インサイド・ヘッド2』では、「シンパイ役」を演じている。




















