サイレント映画から洋邦の貴重な名作まで 「新宿東口映画祭2023」注目作品を一挙紹介!

「新宿東口映画祭2023」注目作品を紹介

 「新宿東口映画祭」の上映作である、名匠エルンスト・ルビッチ監督のロマンス映画『思ひ出』も、ぜひ観てもらいたい一作。ドイツ・ザクセン公国の王子カール・ハインリッヒと宿屋の娘との恋愛、そして王子専属の家庭教師になった教授との師弟愛が、登場人物の生き生きとした演技で語られるといった内容で、国王としての義務と人間としての感情の間で引き裂かれる王子の葛藤が、ルビッチ監督の洗練された演出で、エモーショナルに描かれる。この題材は、最近惜しくもこの世を去った、坂本龍一の音楽家としての代表作であり、出演作『ラストエンペラー』にも通底するものだ。

『さらば夏の光よ』©1976松竹株式会社

 もちろん、本映画祭ではサイレント以外の映画にも注目作は多い。『さらば夏の光よ』は、郷ひろみの成人間もない、フレッシュな時代の映画主演作で、相手役の秋吉久美子演じる少女とともに、1970年代のロッテリアでアルバイトする場面が楽しい。キュートでさわやかな若者たちの恋愛が最後まで展開されるのかと思いきや、マーティン・スコセッシ監督が日本を舞台に映画化した『沈黙』の原作者である、遠藤周作の同名小説が基となっているだけに、格差社会や女性の生き方を考えさせる現代的な要素や、ハードで心をえぐるような展開も用意されている。日本のバブル時代を象徴する「トレンディドラマ」が流行する以前は、このような重厚な内容がロマンスとともに描かれることが多かった。

『シリウスの伝説』©2023 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. L640081

 1981年公開の、サンリオ20周年を記念したアニメーション映画『シリウスの伝説』も、驚くようなテーマ性を持った作品だ。火の世界と水の世界それぞれに住む若者たちの禁じられた恋愛を描く、サンリオ創業者の辻信太郎が紡ぐオリジナルストーリーは、国同士でいがみ合い、互いを悪だと吹聴する者たちによって亀裂が深まっていくという、いまも続く現実の世界そのものの不寛容を暗示しているといえる。ディズニーの手描き作品を思わせる、ハイクォリティなアニメーション技術が素晴らしく、いまの日本ではこのような予算をかけたオリジナルアニメ映画の企画が貴重になっただけに、新鮮な印象を与えられる。

『認知症と生きる 希望の処方箋』©2025年問題映画製作委員会

 ドキュメンタリー作品では、『認知症と生きる 希望の処方箋』が上映される。日本で近年とくに深刻化しているのが、認知症の問題。名古屋のある病院では、認知症の症状に対し音楽療法を用いて、その人に合った曲を聴かせることで、改善を目指しているという。その姿と患者の反応を映し出すことで、特効薬のない認知症に一筋の希望を与える内容となっている。

『悪党に粛清を』©2014 Zentropa Entertainments33 ApS, Denmark, Black Creek Films Limited, United Kingdom & Spier Productions (PTY), Limited, South Africa

 さらに、先日「大阪コミコン2023」のために来日したことも記憶に新しい、マッツ・ミケルセン主演の本格ウェスタン『悪党に粛清を』もラインナップ。2015年の日本公開当時、初来日となったミケルセンが新宿武蔵野館に来館し大きな話題となった一作だけに、メモリアルな上映となりそうだ。

『ボーイ・ミーツ・ガール』©THEO FILM
『愛と誠』©1974松竹株式会社
『潮騒』©1975 東宝
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『ボーイ・ミーツ・ガール』©THEO FILM
『愛と誠』©1974松竹株式会社
『潮騒』©1975 東宝
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 「新宿東口映画祭」では他にも、レオス・カラックス監督の初長編『ボーイ・ミーツ・ガール』、梶原一騎・ながやす巧原作・西城秀樹主演の『愛と誠』、若い時代の山口百恵と三浦友和が出演した、三島由紀夫原作の『潮騒』などなど、スクリーンで観られる機会の少ない作品がラインナップに並んでいる。

 とくに最近は、戦争など世界の不穏な動きはもちろん、以前では考えられないような凶悪な事件が各地で多発するなど、暗い世相が日本を覆っている印象が強い。「新宿東口映画祭」が、今回のテーマを“愛”に定め、映画のなかで最も描かれてきた感情に立ち戻ったというのは、映画と社会が切っても切れない関係にあるという意味では、象徴的だといえるかもしれない。いま、この殺伐とした世界に必要なのは、これらの映画がうったえる、他者への愛情と寛容な精神であることは疑いようもない。

■公開情報
「新宿東口映画祭2023」
5月26日(金)~6月8日(木)14日間開催
会場:新宿武蔵野館(東京都新宿区新宿3-27-10 武蔵野ビル3F)、シネマカリテ( 東京都新宿区新宿3-37-12 新宿NOWAビルB1F)

【チケット情報】
オンライン予約販売:5月19日(金)正午より
オンライン予約サイト:
武蔵野館オンライン予約サイト:https://www1.musashino-ticket.jp/shinjuku/schedule/index.php
シネマカリテオンライン予約サイト:https://www1.musashino-ticket.jp/qualite/schedule/index.php

※各回のチケットはPC・スマートフォンなどによるインターネットにて販売致します。電話でのご予約は受け付けておりません。但し5月20日(土)開館時間までに残席が出た場合のみ、窓口でも販売を行います。
※チケットは完売次第、販売を終了します。
※チケットのご購入後の変更、払い戻しは致しません。
※転売目的でのチケットのご購入は固くお断り致します。
※特別興行につき、株主優待券(証)株主優待割引・招待券・各種割引はご使用いただけません。

後援:新宿区/公益財団法人 新宿未来創造財団/一般社団法人 新宿観光振興協会
協力:新宿東口商店街振興組合/国立映画アーカイブ
協賛:UNIQLO新宿フラッグス店
公式サイト:https://filmfest.musashino-k.co.jp/
公式Twitter:@shinjuku_f_fest

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