坂口健太郎の心情表現は別格だ 『Dr.チョコレート』で滲ませる白山乃愛との絆と“葛藤”
坂口健太郎が日本テレビ系の4月期と7月期のドラマで2クール連続で主演を務めるという異例の試みの第1弾が、『Dr.チョコレート』(日本テレビ系)。
“予測不能な医療エンターテインメント”で坂口が演じるのは、“COOLな元医者”という触れ込みがあったが、ここから連想される内容を軽やかに飛び越える新しさが本作には詰まっている。
まず何より新しいのは、天才外科医Dr.チョコレートの正体が“元医者”である坂口演じる“Teacher”こと野田哲也ではなく、10歳の少女・寺島唯(白山乃愛)であるという設定だ。野田は、Dr.チョコレートの代理人を務める。
野田は、彼女の父親で天才心臓外科医だった光一(山本耕史)の元で研修医をしていた。しかし、唯の両親が何者かに事故を装い暗殺される爆破事故が起こった際に右腕を負傷し、義手になり手術ができなくなってしまう。そして野田がオペできる腕を失ったと同時に、外科医としての天才的才能を開花させたのが唯だったのだ。
恩師と両親、それぞれにとって大切な存在を奪われた彼らは生活を共にし、闇医者として暗躍しながら事件の真相を追う。
野田は、坂口お得意の冷静沈着でぶっきらぼうながら“ここぞ”という時に不器用さや愛情深さも同居させるなんとも魅力的な役どころだ。野田の隣を歩く10歳の少女・唯との身長差がたまらないが、「子ども扱いしないで。年齢はただの数字」「命は一つ。誰にも平等にね」が口癖の唯のことを決してみくびらず侮らない。彼女のオペの腕に惚れ込んでいるし信頼している。唯に対して敬意もあるし、彼らの間には対等な関係性が見える。
亡き恩師をこの世から葬った犯人を見つけ出し復讐するというのはもちろん、それ以上に唯を守り立派に育て上げるという恩師との約束を何がなんでも守ろうとする野田。だからこそ、“チョコレートカンパニー”の活動を絶対に存続させなければならないものの、その一方で唯からごくごく一般的な10歳の子どもとしての生活や経験を制限させてしまっていることに負い目も感じているだろう野田の葛藤が見て取れる。
野田は、天才外科医とはいえ折に触れて10歳の少女の顔を覗かせる唯のことを時々興味深そうに、そして別の生き物を見るような眼差しを向ける。そして少し離れたところから同い年の友人らと唯が遊ぶ様子を安堵と心配が入り混じった複雑な表情で見守る姿も見せる。わかりやすい愛情表現はなくとも、その佇まいに自身の使命と責任感、しかしそれだけには留まらない唯との絆や信頼感を滲ませる。
クールな役どころが似合う坂口は、言い換えれば普段からそう口数が多いわけではないキャラクターを演じることがままある。言葉というわかりやすい手段は封じた上で、そのキャラクターの人柄や本心を伝えるには、視線の動きや言葉を発する間から唾を飲み込むタイミングまであらゆる所作の微細な違いがモノを言うわけだが、それが抜群に上手いのが坂口だろう。
研修医時代の野田の姿は現時点ではそう多く登場しないが、現在の野田の中にある葛藤の片鱗を見るに、この爆破事件以降の彼は表に見える性格が随分変わったのだろうことは想像に容易い。爆破事件の黒幕と目される北澤司郎(眞島秀和)の妻・睦美(香椎由宇)に指摘されていた通り、きっと以前はもっと普段からはにかんだ笑顔を見せていたのだろう野田を思うと、何とも言えない気持ちになる。