『メディア王』の非凡なドラマツルギー 意外な展開を見せ始めたコナーの選挙活動

『メディ王』の非凡なドラマツルギー

 NYの街中でケンダル(ジェレミー・ストロング)は元妻に向かって叫ぶ。「俺は6大陸を相手に粉骨砕身だ。子供たちのためだ。あと世界平和!」

 本気かと面食らう唐突さだが、ケンダル・ロイはいつだって真剣そのもの。時に無謀な(子供じみてもいる)ケンダルの正義感が物語を駆動させ、『メディア王~華麗なる一族~(原題:サクセッション)』(以下、『サクセッション』)はアメリカの斜陽を批評してきた。一族に対して反旗を翻したシーズン3の第2話では、兄妹たちを前にこう言っている。「アメリカの世紀は終わりだ。うちの会社は衰退する帝国。人々はすさんで銃やクスリでどんどん死ぬ」。同じくシーズン3の第8話では、父親を前にこうも言った。「父さんも社会も腐ってる。愛しているから言いにくいが、父さんはある種の悪だ。父さんは賢いが、やってきたことは全てを金にすること。何もかも……階級や人種間の恨みまで。人の闇を金に換えた」。大統領選挙投票日の前夜、政財界の魑魅魍魎が集うパーティーを舞台にしたシーズン4第7話『選挙前パーティー』(原題:Tailgate Party)では、もう1人、思いも寄らぬ人物が民主主義の理想を語って私たちの意表を突く。

 これまでロイ家にとっても視聴者にとっても物笑いの種になってきた長男コナー(アラン・ラック)の選挙活動が、ここに来て意外な展開を見せ始める。コナーの支持率1パーセントが接戦州の勝敗を決める鍵となり、共和党メンケン(ジャスティン・カーク)陣営から選挙戦撤退の打診が入るのだ。コナーが退けば支持票は共和党に流れる。見返りは米国大使の座。有頂天のコナーに妻のウィラ(ジャスティン・ルーペ)は顔を曇らせた。ケンダルの娘は父親が右翼メディアのCEOであるばかりに孤立し、ウィラの家族もまた極右政治家メンケンの台頭を嫌っている。コミックリリーフに過ぎなかったコナーが見せる純粋さは第7話の唯一の救いと言っていいだろう。コナーは言う「何でも起こりえる。それが民主主義のいいところだ。僕を道化だと思わない人が1人いる。僕はその人の話を聞く」。

 アメリカの行く末を左右する高層階の宴に私たち庶民の姿はなく、策謀渦巻く中でコナーとウィラが彼らなりの真実に到達する一方、シヴ(サラ・スヌーク)とトム(マシュー・マクファディン)の関係はついに破滅的な結末を迎える。多くの登場人物が入り乱れるパーティー会場の群像演出は『サクセッション』のトレードマーク。ロバート・プルチーニ、シャリ・スプリンガー・バーマンの夫婦デュオ監督は、シヴとトム、ロイとウィラという2組の夫婦、ジェリー(J・スミス=キャメロン)とエヴァ(ジュディ・レイエス)という各陣営の離反者、そしてゴージョーにおけるインドとウェイスターのリビング・プラスといった複数のモチーフを対にして入り乱れたプロットを捌いていく。

 両監督は、2003年に映画『アメリカン・スプレンダー』でデビュー。同名カルトコミックを映画化した本作は、劇映画とドキュメンタリーを横断するユニークな作風や、主演ポール・ジアマッティとホープ・デイヴィス(『サクセッション』ではウェイスター・ロイコの役員サンディを演じている)の名演で注目を浴びた。日本では2023年2月にディズニープラスで配信されたTVシリーズ『バツイチ男の大ピンチ!』では、離婚した夫婦を双方の視点から描く物語に彼らの多角的な作風がマッチしていた。『サクセッション』は前回第6話のローリーン・スカファリア(『ハスラーズ』)といい、気鋭の映画監督を積極的に起用してその才能を伸ばしている。

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