『メディア王』の非凡なドラマツルギー 意外な展開を見せ始めたコナーの選挙活動
パーティーのホスト役として奔走してきたトムはボロボロに疲弊する。どこへ行っても話題はウェイスターの売却後、自身がATN会長の座から失脚することばかり。庶民の生まれながらシヴとの結婚で成り上がり、自身もまた特権階級として振る舞おうとしてきたものの、クルーズ船の不祥事では前任の責を負って矢面に立たされ、一時は刑務所行きの危機すらあった。どんなにあがいてもロイ家では使い捨ての兵隊に過ぎない。振り返ればトムとシヴは全くと言っていいほど噛み合っていなかった。ほとんど話を聞いていないシヴとのちぐはぐなやり取りは『サクセッション』の恒例として皮肉な笑いを生んできたが、ようやく同じ目線に立ってみれば2人は痛ましいまでに傷つけ合う。一向に意に介されてこなかったトムの怒りはシヴの妊娠という真実を知らぬまま「君は人を愛せない。子供を持てるようないい人じゃないんだ」という言葉になって彼女を打ちのめす。
自分はひょっとして誰のことも愛していないし、愛することもできないのか? 兄たち2人が父親の影に今なお覆われているように、シヴもまた母の冷酷さに囚われ続けているのかも知れない。ローガン(ブライアン・コックス)が言葉の通じない子供たちに絶望したように、安易なヒューマニズムを排し、物語にはなりにくい感情的断絶を最終局面に持ってくるところに、『サクセッション』の非凡なドラマツルギーがある。
ウェイスター買収へ向けて政財界へ食い込むべくやってきたマットソン(アレクサンダー・スカルスガルド)は「結局は金とゴシップなんだな」と俗物たちをせせら笑い、NYの街を見下ろしてはレゴランドのようだとアメリカを皮肉る。だが、ゴージョーの広報部長エヴァが、インドでの会員数の水増しをリーク。片や勢い任せに解雇通知を言い渡したローマン(キーラン・カルキン)とジェリーの関係は修復不能な状態で、火種はくすぶり始めている。マットソンがエヴァに0.5lの血液を送り続けたのなら、ローマンは事もあろうに自身の局部画像をジェリーに送り続けていた(シーズン3第8話の大騒動を思い出してほしい)。ジェリーはもちろん法的な攻撃材料を揃えて、いつでもローマンの首を取る覚悟だ。ケンダルはついに掴んだマットソンの弱点に色めき立ち、これを反撃材料にゴージョーを買収する起死回生の策に打って出る。しかし、リビング・プラスもまた数字を粉飾していることを思えば、抱えている時限爆弾の数は同じだろう。錯綜する想いをよそに、アメリカが重要な決断を下す大統領選挙当日がやってこようとしていた。
■配信情報
『メディア王~華麗なる一族~ シーズン4』
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