『映画ドラえもん』シリーズはなぜ愛され続けるのか 挑戦をやめない作り手たちの気概

『映画ドラえもん』はなぜ愛され続けるのか

 これらのメッセージ性は時代に合わせて変化していく。『映画ドラえもん』シリーズはリメイク作品が多いことでも有名だが、それだけ過去に名作を生み出してきた証拠ともいえるだろう。一方で、ただ単にお話をそのままに映像を一新しているだけではない。例として2016年公開の『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』から、歴史を改変しようとするギガゾンビとの対決の場面を挙げたい。

 1989年公開の『映画ドラえもん のび太の日本誕生』では、ギガゾンビとの直接対決は少なく、タイムパトロールに悪事がバレて捕まるという展開だが、『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』は大きく改変されている。どんな機械も分解できる光線を繰り出すギガゾンビと対峙して、ドラえもんたちは石槍を投げつける。そしてその石槍が当たってギガゾンビは倒れるのだが、ドラえもんは「偽物の歴史が本物の歴史に勝てるわけがないだろう」と叫ぶのだ。歴史を巡るさまざまな論争がある中で、このセリフがドラえもんたちの勝利の要因だと思えば、物語としてもこれ以上の納得はなく、子どもたちにも教育的メッセージとして印象に残る。

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 また2022年公開の『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021』は、コロナ禍による1年の延期を経て公開されるタイミングでウクライナ戦争が勃発した。制作も含めて誰もが予想しない事態だったが、偶然とはいえこのタイミングで公開されたことに、大きな意味を見出した観客も多いだろう。

 ただし、一方でその強いメッセージ性とキャラクター性は課題にもなる。子どもたちに対する教育的な配慮が必要とされたり、国内外の観客も満足させるという大きな使命があることで、少し窮屈になっている部分もあるだろう。また映画作品も40作品以上と多く作られ、あらゆるモチーフが使い果たされているような感覚にも陥る。

 しかし、そんな心配をよそに、『映画ドラえもん』シリーズは挑戦を続けている。新作映画シリーズにおいては、各界から著名な脚本家を招いているところにもその心意気が垣間見える。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』では、直木賞作家であり『ドラえもん』ファンとしても名高い辻村深月。『映画ドラえもん のび太の宝島』と『映画ドラえもん のび太の新恐竜』では映画プロデューサーであり、小説家でもある川村元気。そして『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』では、現在放送中のNHK大河ドラマ『どうする家康』など、多くの人気ドラマ、映画を手がけてきた古沢良太が脚本を担当した。

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 各脚本家たちは、それぞれの個性を発揮しながらも、独自のドラえもんワールドを作り上げていった。そして映像表現でも『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』では静謐さを感じさせる映像美を、『映画ドラえもん のび太の宝島』では動的な迫力あるダイナミックな冒険で魅了。まさに変幻自在で物語・映像の両方向で挑戦する姿勢を忘れていないのだ。物語・映像・メッセージと創意工夫を凝らす姿勢が、世界屈指のクオリティを誇るファミリー向けアニメシリーズとなっている何よりもの要因だろう。

 『映画ドラえもん』は挑戦を重ねながらも、変わらない魅力を発揮しているシリーズだ。ただし一方で、児童・幼児向けの印象が強いこともあり、これほどレベルが高くても映画祭などに縁が薄い状況もある。子どもと本気で向き合ってきたシリーズだけに、新たなる挑戦に目を向けながらも、さらに高い評価と注目度を集めるように期待したい。

■公開情報
『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』
公開中
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、井上麻里奈、水瀬いのり、永瀬廉(King & Prince)、山里亮太(南海キャンディーズ)、藤本美貴
原作:藤子・F・不二雄
監督:堂山卓見
脚本:古沢良太
主題歌:NiziU「Paradise」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
©︎藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2023
配給:東宝
公式サイト:https://doraeiga.com/2023/

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