『映画ドラえもん』シリーズはなぜ愛され続けるのか 挑戦をやめない作り手たちの気概

『映画ドラえもん』はなぜ愛され続けるのか

 「『映画ドラえもん』シリーズは、世界の映画を見渡しても、最もクオリティの高いシリーズの1つである」と言ったら、驚かれるだろうか。安定してクオリティが高く、子どもから大人まで楽しめるファミリー向け作品という点においても、さらに評価されて然るべきシリーズだと感じている。今回は『映画ドラえもん』シリーズの強みと課題、そして近年の挑戦について語っていきたい。

 『映画ドラえもん』シリーズが根強く支持され、高く評価される理由としては、以下の3点が挙げられる。

・確立したキャラクター性と人気
・シンプルでありながらも完成された物語の基本構造
・誰もが安心して観られるメッセージ性

 “ドラえもん”といえば、誰もが丸くて青い猫型ロボットを想像するだろう。誕生から50年以上過ぎてなお、日本中の老若男女を問わず高い認知度を獲得し、幅広い世代に愛されている国民的キャラクターだ。近年では海外での人気も高く、中国では毎年公開される『映画ドラえもん』シリーズの興行収入も、安定して1億元(約19億円)以上の売り上げを誇るなど、数字の面からもその人気が立証されている。

 『ドラえもん』の人気の秘密の1つは、完成された物語の基本構造にある。気は優しいけれど取り柄が少ない少年のび太を、未来から来たロボットであるドラえもんが不思議なひみつ道具で助けてくれる、という物語はわかりやすく面白さが伝わりやすい。ひみつ道具にて想像力を刺激され、キャラクターたちの掛け合いから生まれる日常的で共感できるドラマ、そして時には増長して痛い目を見るのび太の姿に笑いと教訓を散りばめながらも、時にホロリと感動話や成長話を織り交ぜる。

 原作を紐解けば、時には10ページもない1話完結の物語でありながらも、過不足なくまとまっている話が多く、この基本構造がいかにシンプルでありながらも完成されているのかが伺える。また少し落ちこぼれの子が成長したり、いじめっ子をやり返すという物語も、愛されるキャラクター像の1つのパターンであり、世界各地で受け入れられる要因の1つだろう。

 そして映画版に話を移せば、誰もが安心して観られるメッセージ性が込められている。例として最新作の『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』を挙げよう。この作品では子どもたちを完璧な人に教育するという名目のもと、その個性を奪ってしまうという展開が描かれている。しかし、例えジャイアンが乱暴者だとしても、それだって大切な個性であるという、まさに個性の尊重と多様性のある社会を目指すべきというメッセージが発せられている。教育的配慮は今作に限らず、小さな子どもと鑑賞する保護者としても安心できるメッセージ性を内包しているのも特徴だ。

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