大ヒット作が並ぶ第46回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞 5作品を振り返る

2022年大ヒットアニメ映画を振り返る

 興行成績が良かった映画が優れた映画と決まっているわけではないが、多くの人が劇場に足を運んだ結果が数字として表れれば、それだけ世間の関心や話題を集めた映画と評されてもいいだろう。それでいて本編も空疎な作りでなく、観た人の心に訴えるような良い出来であれば、なお結構だ。その意味で、2022年に公開された劇場用アニメは、いずれも累計興行収入が100億円を超える大ヒット作が多かった。

 例えば8月公開の『ONE PIECE FILM RED』は197億円、11月公開の『すずめの戸締まり』は140億円超え(2023年3月時点)、12月公開の『THE FIRST SLAM DUNK』は116億円超え(2023年3月時点)と、コロナ禍で一時期は低迷していた映画興行界を活性化させるに値する健闘を見せている。そして、これら100億超えのメガヒット3作と、『かがみの孤城』、『犬王』の全5作品が、第46回日本アカデミー賞の優秀アニメーション作品賞を受賞した。

『犬王』

『犬王』©︎2021 “INU-OH” Film Partners

 『犬王』は、室町時代に実在した能楽師を主人公としながら、舞はダンス、歌はロックのように現代的なアプローチで描いており、その斬新な映像美と相まって、国内外を問わず多くの映画賞でノミネートまたは受賞に輝いた。犬王の声と歌を担当したロックバンド女王蜂のボーカリスト、アヴちゃんは、湯浅政明監督の『DEVILMAN crybaby』(2018年)に参加していた。他にもアニメーターの松本憲生、キャラクター原案を担当した漫画家の松本大洋、音響監督の木村絵理子など、過去の湯浅監督作で組んでいたスタッフの参加、そして湯浅政明の立ち上げたスタジオ、サイエンスSARUの制作であることも含め、『犬王』は安定の湯浅ブランドで出来上がっている。もちろん、これまで湯浅監督作品を1作も観たことがない人でも、たっぷり楽しめるエンターテインメント作品なのは言うまでもない。

劇場アニメーション『犬王』劇中歌「腕塚」歌詞付き映像

『かがみの孤城』

『かがみの孤城』©︎2022「かがみの孤城」製作委員会

 『かがみの孤城』は、辻村深月が2017年に発表した同名小説をアニメ化したもので、監督は『映画クレヨンしんちゃん』シリーズの中でも傑作と名高い作品を手がけた原恵一。中学1年生の少女こころが、見知らぬ同世代の中学生5人の子らと共に、狼の面をつけた少女が仕切る孤城に迷い込む……というのが『かがみの孤城』の概略である。ファンタジー仕立てのドラマに、いじめや不登校のテーマを秘めている。

 本作の脚本を担当した丸尾みほは、劇場用アニメ『カラフル』(2010年)以降、原監督と4作目のコンビを組むベテラン脚本家で、かなりのボリュームがある原作を116分の映画用に再構築するために、“傷ついた魂の再生”という、こころのドラマに集束させた巧みなシナリオを練り上げた。2023年3月現在、まだ上映中の作品なので、未見の人は是非鑑賞されたし。

映画『かがみの孤城』予告編

『ONE PIECE FILM RED』

『ONE PIECE FILM RED』©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 TVアニメ『ONE PIECE』の劇場版は、2009年公開の第10作『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』以降、コンスタントに興行収入50億前後を稼ぐ人気シリーズであったが、第15作『ONE PIECE FILM RED』は197億と桁違いのヒットを記録したモンスター級の話題作だ。本作のキーパーソンかつヒロインは歌姫のウタ。彼女が劇中で歌う楽曲「新時代」をフィーチャーしたCM、予告編をテレビや劇場で目にした人も多いだろう。『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)、『第73回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)をはじめ音楽番組にCGキャラのウタが出演して「新時代」を披露するなど、興行以外の部分でも話題にも事欠かなかった。

 映画自体も約5カ月強のロングラン上映を成し遂げ、それまでの『ONE PIECE』映画の記録を塗り替えた。同じシリーズ中でこの記録を更新するのは容易ではないだろうが、果たして次回の劇場版がどんな手で来るか楽しみだ。

ウタ - 新時代 (Live at 国立競技場 2022.11.03)

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