『THE FIRST SLAM DUNK』の偉業は語り継がれ続ける 井上雄彦が監督・脚本を務めた意義

井上雄彦監督『SLAM DUNK』の偉業

 全国の映画館で大ヒット上映中の映画『THE FIRST SLAM DUNK』の興行収入が、89億円を突破したことが1月23日に報じられた。興行通信社の発表によると、2022年12月3日に公開された本作は、週末の3日間だけで興収4億1200万円、観客動員数27万5000人を記録(※)。公開初日には上映館のロビーにキャラクターグッズを求める物販の行列が出来るなど、各地で好調なスタートを切った。

 もともと今回の映画の原作『SLAM DUNK』は1990年代に『週刊少年ジャンプ』(集英社)誌上で発表されたスポーツ漫画で、連載中の1993年から1996年にかけて東映動画(現・東映アニメーション)でテレビアニメ化された作品である。神奈川県立・湘北高等学校のバスケットボール部員たち、および彼らと対戦する選手たちを熱く描いた漫画に影響を受けてバスケを始めた人も多く、『SLAM DUNK』は永らくバスケ漫画の金字塔的存在だった。

 テレビアニメ放送中に4本の劇場用作品が制作されたが、東映アニメフェアでのプログラム扱いということもあり、いずれも上映時間は1時間に満たない中編~短編だった。それから長い年月が過ぎ、2021年1月に原作者・井上雄彦が自らのTwitterアカウントで新作映画の制作を発表。2022年になって、その映画が3DCGアニメであることや、テレビアニメ版と同じ東映アニメーションの制作でありながらキャストは一新されることが明かされると、原作ファン、アニメファン双方から少なからず反発の声が挙がった。しかし、映画公開後はそうした批判の数々を、内容の素晴らしさをもって覆す形になったのだ。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』公開後PV

 映画『THE FIRST SLAM DUNK』は、原作漫画およびテレビアニメ版で主人公だった1年生のお調子者キャラ・桜木花道ではなく、小柄な2年生の宮城リョータをメインとした構成になっている。映画公開直前までストーリーが極秘だっただけに、リョータ中心の映画と知って「えっ、桜木メインの話じゃないのか!?」と、意外に思った原作ファンも多いという。これに関しては映画のパンフレットで監督・脚本を務めた原作者の井上雄彦が「原作をなぞって同じものを作ることにそそられなかった」「リョータは連載中にもっと描きたいキャラだった」などを理由として語っている。

 映画は山王(さんのう)高校バスケ部と湘北バスケ部との熾烈な戦いをリアルタイムで追いつつ、随時カットバックでリョータの過去を掘り下げていく。映画で初めて明かされる彼のエピソードも多く、まさに原作者が脚本と監督を兼ねている意味がある作り方だ。本作のCG作画を支えるダンデライオンアニメーションスタジオは、過去にも『ポッピンQ』(2016年)、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(2022年)などで東映アニメーションとタッグを組んでおり、井上の漫画のタッチを活かしたモデリングを見事に作り出している。コートを駆けまわるキャラクターたちの躍動感は、原作者の熱意をデジタルでいかに表現できるかというダンデライオンスタジオの意気込みを感じる。

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