『風、薫る』でも活躍の“名声優”関智一 劇団座長や大河俳優もこなす圧倒的演技力

『風、薫る』でも活躍の“名声優”関智一

 よく通る声で、こちらが口を挟む隙もないほど話し続ける。新しく赴任してきたりん(見上愛)に興味津々で、東京での暮らしや看護婦としての経歴について次から次へと質問を投げかける。NHK連続テレビ小説『風、薫る』の新潟編に登場した高越女学校の校長・望月は、初登場から実ににぎやかな人物だった。

 少々おせっかいで話が長いが、悪い人ではない。むしろ人懐っこく、りんを歓迎しようという気持ちが全身からあふれている。生徒たちが「また始まった」と言わんばかりにその場を離れていく様子からも、普段から愛されている校長であることがうかがえる。りんが東京で培ってきた考え方とは大きく異なりながらも、どこか憎めない。そんな望月の人柄を、関智一は登場してわずかな時間で浮かび上がらせた。

 関といえば、『機動武闘伝Gガンダム』のドモン・カッシュ、『ドラえもん』の骨川スネ夫、『Fate』シリーズのギルガメッシュ、『PSYCHO-PASS サイコパス』の狡噛慎也、『呪術廻戦』のパンダ、『鬼滅の刃』の不死川実弥など、数々の人気キャラクターを演じてきた声優界の第一人者だ。熱血漢からクールな二枚目、コミカルな少年、絶対的な力を持つ王まで、役の振り幅はとにかく広い。出演作を挙げていけば、それだけで一つのアニメ史が完成してしまいそうなほどである。

 望月の第一声を聞いて、関の出演に気づいた視聴者も多かったはずだ。一度聞けば忘れない特徴的な声と、長台詞を淀みなく運ぶ滑舌のよさ。校長室の中だけでなく、学校中に響き渡りそうな声には、声優として長年培ってきた技術が存分に生かされている。

 とはいえ、望月役の魅力は「いい声」だけではない。関は声の強さに頼ることなく、少し前へ乗り出す姿勢や、興味の対象を見つけるたびに動く視線、相手の返事を待ちきれないような間の取り方から、望月の好奇心の強さを表現している。しゃべり続ける姿は騒がしいのに、不思議と不快には感じない。気づけばこちらも、りんと一緒に望月のペースへ巻き込まれている。

 そんな愛嬌たっぷりの望月だが、りんにとって必ずしも頼れる理解者とは限らない。望月は、女性にとって最も幸せなのは良縁に恵まれることだと信じている。子どもを育てながら働くりんに対しても、「普通とは違うのだから目立たないように」と忠告する。そこに悪意はない。新しい土地でりんが浮かないよう、本人なりに気を配っているのだろう。しかし、りんを思って語られる言葉だからこそ、無自覚な圧力と言わんばかりの内側にある価値観の根深さも際立っている。

 一見すると相反するものを同じ人物の中に成立させているのが、関の演技の面白さである。望月を単純な敵役にしてしまえば、りんが新潟で直面する壁もわかりやすい。しかし現実に人を縛るのは、露骨な悪意ばかりではない。善意の顔をして差し出される「あなたのため」という言葉が、その人の生き方を狭めることもある。望月の何げない言動を通して、『風、薫る』は時代の価値観が人から人へ受け継がれていく様子を描いている。

 こうした芝居を支えているのは、声優としての経験だけではない。関は1994年の旗揚げ以来、劇団ヘロヘロQカムパニーの座長を務め、長年にわたって舞台に立ち続けてきた。近年は『桜の塔』(テレビ朝日系)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』など、実写作品への出演も増えている。アニメ、舞台、映像と、それぞれの場所で芝居を積み重ねてきた役者なのだ。

 関は、声だけで人物を表現するアニメ、全身で観客に芝居を届ける舞台、細かな表情や視線が映し出されるドラマと、それぞれの表現の違いをよく知っている。『風、薫る』でも、よく通る声に頼るだけでなく、姿勢や目線、間の取り方まで使って望月という人物を作り上げている。長年、さまざまな場所で芝居を続けてきた経験が、この役にも生かされているのだ。

 りんが目指してきたのは、結婚や家庭だけに縛られず、自分の力で誰かを助ける生き方だった。対する望月は、りんを温かく迎えながら、その考え方を無意識のうちに“普通”の外へ追いやっていく。親しみやすく、よくしゃべり、どこか愛らしい。それでも、りんにとっては越えなければならない壁の一つになるかもしれない。

 声優として第一線を走り続けてきた関の技術と、舞台で磨かれた役者としての感覚。その両方があるからこそ、望月は『風、薫る』の新潟編に欠かせない、ひと筋縄ではいかない人物となっている。

■放送情報
2026年度前期 連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から土曜8:00~8:15放送
※土曜は一週間を振り返り ※NHK ONEで同時・見逃し配信あり
NHK BS・BSプレミアム4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送
出演:見上愛、上坂樹里ほか
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
音楽:野見祐二
主題歌:Mrs. GREEN APPLE「風と町」
語り:研ナオコ
制作統括:松園武大、宮本えり子
プロデューサー:葛西勇也、松田恭典
演出:佐々木善春、橋本万葉、新田真三、松本仁志ほか
写真提供=NHK

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