『祈りのカルテ』が仕掛けたホラーチックな空気感 椎名桔平と原田泰造の関係性が明らかに

『祈りのカルテ』が仕掛けたホラー物語

 2年目に突入した良太(玉森裕太)たちの初期研修。前回のエピソードで描かれた時期が1年目の2月だったので、9月の物語が描かれた今回はそこから一気に半年以上の時間が経過したことになる。その期間に何があったかは特に触れられずに、あくまでも周囲に色々な変化があるなかで自分だけ何も変わっていないと考える良太を描く。様々な科を転々としていく様子を淡々とスライスして重ねていくことで、こうしたモラトリアム期特有の複雑な心境をより顕在化させる。そういった点で医療ドラマと青春ドラマの両立を叶えているのであろう。

 11月12日に放送された『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』(日本テレビ系)第6話の舞台となるのは「小児科」だ。谷川(YU)と共に、志村(勝村政信)というどこか不気味な指導医の元で研修することになった良太は、気管支喘息の発作で救急搬送されてきた8歳の少女・姫井姫子(金子莉彩)の担当につく。1年前から頻繁に発作を起こすようになったという姫子は、病室から見える窓の外を指差し「魔女がいる」と言い出す。そんななか、良太は製薬会社の営業の灰崎(藤剛範)から、志村にまつわる奇妙な噂を聞かされる。そしてその直後、病室から姫子がいなくなってしまうのだ。

 というあらすじからもわかるように、いささかホラー寄りの雰囲気を放った今回のエピソード。もちろん劇中で語られるような“病院の都市伝説”の類は噂に過ぎず、志村の台詞を借りれば「想像もしてなかったことが起こる」小児科の他の科との差異を見せること。あるいは一種の異世界感のようなものを象徴しているように思える。そして一連の姫子の行動にも、これまで向き合ってきた患者と同じように“理由”がある。「子どもは小さな大人ではない」と志村は最初に良太と谷川に言うわけだが、内側に何かを秘めている点は、子どもも大人とさして変わりはないのである。

 いずれにせよ小児科という舞台に、ホラーチックな空気感。その融和がこともなげに成り立っているのは、劇中にも登場する童話/寓話のおかげであろう。姫子のあだ名でもあり、母親の再婚前の旧姓から導き出される『シンデレラ(灰かぶり姫)』を筆頭に、姫子の嘘にどう対処すべきかと良太が立石(松雪泰子)に相談した際に挙げられる『羊飼いと狼』。そして笛を吹いて子供たちを器用に操る志村の“自分なりのやり方”で体現される『ハーメルンの笛吹き男』。序盤で谷川が読み聞かせる『ヘンゼルとグレーテル』も含め、あざとくも絶妙に怖い物語ばかりがチョイスされているのは何とも興味深い。

 ところで前回意味深なままで閉じられていた冴木(椎名桔平)と広瀬(原田泰造)の関係が、かつて同期の研修医であったことが明らかにされた。冴木と同期ということは立石とも同期ということであり、おそらく第2話で百薬荘を訪れた立石が良太たち3人に話した、良太の部屋にかつて住んでいた「医者にならずに辞めちゃった」人物が広瀬ということなのだと推測できる。その広瀬が過去に何らかの罪を犯したという話と、ラストで中華料理屋のカウンターに座る広瀬がする、明らかに体調の悪そうな咳。この辺りを回収するエピソードは後々大きく描かれていくのであろう。

■放送情報
土曜ドラマ『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜放送
出演:玉森裕太、池田エライザ、矢本悠馬、濱津隆之、堀未央奈、YU、松雪泰子、椎名桔平
原作:知念実希人『祈りのカルテ』シリーズ(角川文庫/KADOKAWA)
脚本:根本ノンジ
演出:狩山俊輔、池田千尋
チーフプロデューサー:田中宏史
プロデューサー:藤森真実、戸倉亮爾(AX-ON)
音楽:サキタハヂメ
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/inorinokarte/
公式Twitter:@inorinokartentv
公式Instagram:@inorinokartentv

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