『エルピス』は自身に向けられた刃だ リトマス試験紙のような渡辺あやの脚本

『エルピス』は自身に向けられた刃だ

 敗れた恵那のしたことは、やけ酒、嘔吐、昔の男と事に及ぶ、とこれだけ取るとありきたりだが、長澤まさみの捨て鉢な演技に、人はこれほど無様に泣けるものなのかと感心させられた。だがそれは終わりではなく、絶望の中で生き直した恵那は、ある決意を秘めてスタジオに向かう。

エルピスー希望、あるいは災いー

 渡辺あやが紡ぐ物語は観る側に選択を突き付けるわけではない。しかし、その物語を体験すると自分の中で何かが変容し、その変化を意識させられる。たとえるならリトマス試験紙のような作品ばかりだ。『エルピス』は冤罪を告発し、国家権力に立ち向かう正義の物語として解釈できるが、それだけでなく折に触れて語られてきたのは、冤罪が生まれる際に大きな役割を果たしているのはマスコミで、メディアが真相解明の壁になっていることだ。『エルピス』を観る私たちは、業界の論理で武装し、もっともらしい言葉を吐く彼らを見下げた人間と考えるだろう。だが本当にそうだろうか。本作から表面的な正義のメッセージを受け取って発信する行為が、長いものに巻かれる根性と事なかれ主義の発露ではないと言い切れるだろうか。そのことに思いを致す時、まことに寒々とした気持ちを抑えることができない。

■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv

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