『ストレンジャー・シングス』S4が描いたショッキングな死と結末 シーズン過去最高傑作に

『ストレンジャー・シングス』S4は傑作に

※本稿には『ストレンジャー・シングス 未知の世界』S4全話のネタバレが記載されています。

 もし、私がこれから『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(以下、『ストレンジャー・シングス』)を観るという方にアドバイスできることがあるとしたら、“新キャラには惹かれすぎないこと”かもしれない。しかし、そんなことは言ったとしても不可能だ。なぜなら『ストレンジャー・シングス』という作品およびクリエイターのダファー・ブラザーズは、とにかく視聴者にキャラクターへの愛着を持たせることに長けているから。シーズン4は、それを改めて再確認させられたシーズンでもあった。

 しかし、もう大変なことになってしまった。『ストレンジャー・シングス』はこれまでにも子どもたちがいくつもの困難に立ち向かってきた。どのシーズンでも、最終話では絶対イレブン(ミリー・ボビー・ブラウン)やみんなが打ち勝って、最後の最後に「でも脅威は消えていませんでした……」とチラ見せして終わるパターンがお決まりだったのだ。だから、今回は彼らにとって初めての“負け”であり、その代償があまりにも大きい。(一時的に)マックスという4番目の生贄を殺すことに成功したヴェクナの呪いによって、「裏側の世界」につながる4つの入り口は広がり、ついに現実世界との境目を消した。もうホーキンスにはあの灰のようなものが降り注ぎ、草木は枯れ始め、至るところから黒い煙が立ち込めている。イレブンたちが“丘の上”から見た最後の景色は、まさにこの世の終わりそのもの。この展開に、私はふと『ジュラシック・ワールド/炎の王国』のラストシーンを思い出した。噴火によって、恐竜たちの住んでいた島は消えてしまった。そして彼らが我々の住む本土に解き離れたことで、もう作品として後戻りができないところまで来てしまったのだな、というあの感覚。続編『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』でシリーズが終焉を迎えたのと同じように、『ストレンジャー・シングス』も次のシーズン5で完結となる。

Vol.2で描かれたショッキングな死

 やはり本シーズンのMVPは間違いなくマックス(セイディー・シンク)とエディ(ジョセフ・クイン)だ。マックスに関しては以前執筆したVol.1のレビューでも触れているが、やはり兄のビリー(デイカー・モンゴメリー)の死に対してどこかホッとしてしまったことへの罪悪感を抱えていたことがわかる。ヴェクナ(ジェイミー・キャンベル・バウアー)と再び対峙した彼女のもとにイレブンがやってきたときの安心感といったらなかった。しかも、彼女はパワーアップしている。それなのに、イレブンはヴェクナに抑え込まれてしまい、マックスも浮遊してしまう。これまでの『ストレンジャー・シングス』であれば、そうなったとしても誰かがどうにかしてくれるという安心感があったし、マックスの場合は一度Vol.1で死線を超えている。そういったメタ的な我々の期待を、製作陣はマックスの腕や脚のようにボキボキと折っていく。

 とにかくVol.2は、誰かが死んでしまいそうな、そういったインテンス(強烈)な雰囲気が常にあり続けた。何より、この一連のシーンはブラウンとシンクという、特に今シーズンで俳優としての才能が開花した二人による力強い演技に泣かされる。ブラウンは以前からイレブン役として、役の感じる“痛み”を体現することに長けた俳優であり、シンクに関してはマックスが目が見えなくなって怖がっていたり、死ぬことが嫌だと言ったり、怖がるシーンに相当な説得力を持たせた。結果、彼女は本当に死んでしまうものの、イレブンの力によって命だけは助かった。

 同じく恐怖を感じたとともに、本当に悲しかったのはエディの死である。Vol.1は、あれだけお馴染みのメンバーへの尺を削りながら、丁寧に、しかも視聴者に愛されるような形でエディというキャラクターを展開していただけに、以前のマックスやロビン(マヤ・ホーク)のように今後も仲間に加わっていくと信じていた。甘かった。今シーズン限りの登場がかなり惜しいくらい魅力的な役であるとともに、演じたクインの圧巻のギターパフォーマンス(本人が実際練習して弾いたとのこと)はもちろん、全てのシーンにおいて彼の存在感がシーズンを盛り上げたことは間違いない。目の前で助けられなかったクリッシー(グレイス・ヴァン・ディーン)への罪悪感を抱えていた彼は、自らの命を投げ打ってまで仲間のために時間を稼ぐことで、“英雄”になった。本シーズンの前半は特に各キャラクターの抱えるトラウマや罪悪感がテーマとなっていたが、彼に関しては今シーズンで生まれた罪悪感を、今シーズンのうちに克服した唯一の登場人物でもある。

 克服した、という点ではもう一人それを達成できた人物がいる。イレブンだ。そしてそれを可能にしたのが、Vol.2におけるもう一つの大きな死、パパことブレナー博士(マシュー・モディーン)の退場である。一度は死んだと思われていた彼だが、今回の死はシーズン4全体を通して描かれたイレブンのアイデンティティの探究に大きく貢献することになる。過去のトラウマを思い出し、高校生になった今でも周りに馴染めず、「怪物(モンスター)」扱いされてきたイレブン。自分がずっと「怪物」だと思い込んできた彼女は、ブレナーと再び対峙することで、彼こそが「怪物」であることに気づけた。その気づきは、以前の彼女には得られなかったものであり、マイク(フィン・ヴォルフハルト)たちと過ごし、彼らに与えられた普通の親切心、そして友達としての無償の愛を受けたからこそ、気づけたものだと感じる。その「愛」が、イレブンを「怪物」ではなく「イレブン」として肯定するものであり、彼女のパワーの根源になったのだ。その愛の力はヴェクナ戦にも生き、マイクの掛け声にこちらも涙腺を刺激されてしまったほど。

 そして、最後に赦しを乞うブレナーを、イレブンは許さなかった。彼が口先では「愛」と言っていたものは、虐待であり、洗脳であり、間違ったことだから。どれだけあのシーンでブレナーのことが“可哀想”に見えたとしても、それを許して肯定することはダメなのだ。彼女が毅然とした態度でその場を去るシーンにしたダファー・ブラザーズの英断を、私は賞賛したい。

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