『カナカナ』眞栄田郷敦×加藤柚凪が示した夜ドラ成功の法則 キーワードは“癒し”と“受容”?
佳奈花の不安は他人事ではない。かつてなく多くの情報が氾濫し、瞬時にアクセスできる社会に生きる私たちは、言葉が発する意図や感情、利害や矛盾に絶え間なくさらされている。SNSを例に出すまでもなく、常時つながりながらそれによって疲弊し病んでいるのが現代人で、知ることとそこから派生した誤解や悪意という毒にむしばまれて健やかに生きることができない。他人の心が見えてしまうことで傷つく佳奈花の苦悩は、私たちの延長線上にある。
誰もが傷を抱える時代にあって、自分も他人も病まずに生きていく方法はあるのだろうか。『カナカナ』にはその答えを見出すことができる。居酒屋「パイセン」の大将であるマサは、客は全員後輩として面倒を見るというポリシーで、その人のありのままを受け入れる。過去がどうであれ苦しんでいる人は放っておかないし、安易なラベリングにも流されない。「全肯定」と言われるが、マサの場合そこまで深く考えていない分、シンプルに相手を受容することにつながっている。そのことが、海辺の町を舞台にしたファンタジックな設定と相まって癒しの効果を生んでいる。
1日の終わりに必要なのは、シアトリカルな葛藤の解決や「正しさ」を追求する倫理的な指針よりも、人の心に寄り添う想像力だ。現代的なテーマを寓意にくるんで差し出す『カナカナ』は、夜ドラに求められるのが癒しと受容であることを明らかにした。
■放送情報
『カナカナ』
NHK総合にて、毎週月曜~木曜22:45~23:00放送
出演:眞栄田郷敦、白石聖、前田旺志郎、加藤柚凪、渡辺大、栄信、新川優愛、桐山蓮、橋本じゅん、宮崎美子、武田真治ほか
原作:西森博之『カナカナ』
脚本:荒井修子、木滝りま
音楽:眞鍋昭大、宗形勇輝
主題歌:PEOPLE 1「YOUNG TOWN」
制作統括:海辺潔(NHK)、黒沢淳(テレパック)
演出:河原瑤、守下敏行
写真提供=NHK