『カナカナ』眞栄田郷敦×加藤柚凪が示した夜ドラ成功の法則 キーワードは“癒し”と“受容”?
6月30日に最終回を迎える『カナカナ』(NHK総合)。平日(月曜から木曜)22時45分から23時に新設された「夜ドラ」の第2作として、元ヤンのマサこと日暮正直(眞栄田郷敦)と人の心が読める少女・佳奈花(加藤柚凪)の交流を描いて、好評を得ている。
物語は両親をなくした佳奈花がマサに出会う場面から始まる。特殊な能力を叔父の沢田(武田真治)に利用されていた佳奈花は、初めて会ったマサのまじりっけのない心のきれいさと包容力に惹かれて、マサについていく。
実は佳奈花はマサの遠縁の親戚で、マサの伯母である真実(宮崎美子)は期限付きで佳奈花をマサに預ける。そこから“仮免ファーザー”マサと佳奈花の奇妙な同居生活が始まるわけだが、親友の勇介(前田旺志郎)やマサに思いを寄せる沙和(白石聖)をはじめとする居酒屋「パイセン」常連客とのやり取りや、執拗に佳奈花を狙う沢田やマサを目の敵にする警察署長の桐島(桐山漣)とのせめぎあいがドラマの見どころになっている。
ヒロインに当たる佳奈花の心の声がおもしろい。取り繕った大人たちの本心を知って驚いたり、口では言えない辛口な本音をぶつけてみたり。5歳という年齢に比してませた内面を持つ佳奈花の能力によって、滑稽な大人たちの実像が映し出される。人間観察的なユーモアはあざとさと紙一重だが、そうならないのは、幼い頃から祖母(梅沢昌代)に「人の心を盗み見るのはいけないこと」で、自身の能力は「人から忌み嫌われる」ものと聞かされてきたことや、佳奈花が自らの能力を否定的に捉え、対人関係から距離を置いてきたことも関係している。
加えてマサの存在が大きい。まっさらなキャンバスのような心を持ったマサは、佳奈花の能力をもってしても測りきれない度量の大きさがあり、佳奈花が自身の能力に対して抱く後ろめたさを忘れさせてくれる。人間は、他人の心の中を直接知ることができない。心の中をのぞき見ることができたらと考えることはあっても、実際にできたら相当なストレスに違いない。自身に向けられた悪意や誤解、知りたくなかった相手の醜悪な部分を知って人間不信に陥るだろうし、すべてシャットアウトして逃げ出したくなるかもしれない。一言で言えば地獄だ。
幼くして人間の心の“現実”を知ってしまった佳奈花が、唯一安心できる対象がマサである。仮にマサが佳奈花の能力を知って驚くことはあっても、それによって佳奈花を嫌いになったり遠ざけることはないはずだ。対人関係に不安のある佳奈花は、そのことを直感的に理解していると思われる。