眞栄田郷敦の成長を目に焼き付けたい 『カナカナ』が教えてくれる誰かを信じる心

『カナカナ』が教えてくれる誰かを信じる心

 観るだけで心がホカホカと温まるドラマがある。まるで、眞栄田郷敦演じる主人公マサが加藤柚凪演じる佳奈花に初めて出会った時にあげた肉まんのように。

 4月期から始まったNHKの新しいドラマ枠、毎週月曜日から木曜日の22時45分から各話15分で放送されている「夜ドラ」枠の2作目である『カナカナ』(NHK総合)のことである。元ヤンの青年・マサが、遠縁である、人の心が読める不思議な力を持った5歳の女の子・佳奈花の「仮免ファーザー」となって仲間たちと奮闘するハートフルコメディだ。

『カナカナ』

 原作は、『今日から俺は‼』(小学館)の西森博之による同名コミック。脚本は『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』(NHK総合)、『ディア・ペイシェント~絆のカルテ~』(NHK総合)の荒井修子、木滝りまが手掛ける。とにかく佳奈花を演じる加藤の一挙一動が可愛くて、対するマサを演じる眞栄田の朗らかさに心癒され、なおかつ白石聖や、新川優愛、前田旺志郎らが演じる不器用で優しい登場人物たちが愛おしく、時折目を潤ませて見ずにはいられないほどである。また、マサが佳奈花の冤罪を晴らそうとする週における、『古畑任三郎』(フジテレビ系)のオマージュ、「ファーザー」にかけた『ゴッドファーザー』風のマサのショットなど、遊び心のある演出も“粋”である。

 人の心の声が聞こえてしまう佳奈花から見た世界は、わりとシビアだ。唯一彼女の秘密を知っている叔父・沢田(武田真治)は、彼女を利用しようと手段を選ばないし、彼と結託する警察署の署長・桐島(桐山漣)はマサに対して、なにやら不穏な願望を抱いている。佳奈花を育てた祖母(梅沢昌代)が彼女に言った言葉「一生誰も信じてはダメ」は、残していかなければならない彼女のことを思う一心で発せられた言葉なのだろうが、同時に彼女を縛る呪いの言葉でもある。裸足の少女を気遣って声をかけるママ友たちは、内心では面倒だと毒づいていたり、もしくは自身の優しさをアピールするために、少女そっちのけで互いにマウントを取り合ったりしている。人の外側の善意と内側の悪意のギャップに彼女はこれまでも、何度もいたたまれなくなってきたのだろう。

 そんな中登場するのが、「しゃべっていることと心の中が全然違う」、マサのことが大好きなのに「大嫌い」と叫んでしまう、「チャイルドビィル」好きの強気なOL・沙和(白石聖)だった。沙和と佳奈花は少し似ている。マサと夏影(飯田基祐)の卓球バトル後に芽生えた友情(正しくは先輩後輩の関係)に対し「いいなあ、仲良くなれて。私にはこんなふうになれない」と羨ましく思いながらも、いざ友達ができそうな状況で「私にそんな資格はない」と断ってしまう佳奈花。マサのお見合い相手である、なんでもそつなくこなせる美咲(新川優愛)と自分を比べて落ち込む沙和。そんな2人は気づいたら、マサの愛を巡る“ライバル”同士であるにもかかわらず、互いに共鳴し、手を差し伸べ合っている。

 『カナカナ』は、こんなふうに始まった。海から出てきた、顔に古傷のある精悍な青年、マサ。包丁をキラリと光らせる姿に一瞬不穏さがよぎるが、店に入ってきたおばちゃん(宮崎美子)が息を呑むのは、彼の手元にある、勇介(前田旺志郎)曰く「一撃で仕留めた」大きくて一見怪しい魚イシナギだった。一方、沢田に脅されている少女・佳奈花は、震える手で絵本『みにくいナマズの子』を抱えている。

 『みにくいナマズの子』と聞いたら連想せずにはいられない、アンデルセン童話『みにくいアヒルの子』は、1匹だけ姿かたちが違うため家族にも見放され、行く先々でいじめられていた不幸なアヒルの子が、実は白鳥の子だったことを知るまでの物語だ。いわば『カナカナ』は、たくさんの「みにくいナマズの子」もとい「みにくいアヒルの子」たちの話なのではないか。

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