モトーラ世理奈は未知数な表現者 ドラマ『椅子』で女優たちが見せる異なる“顔”
ストーリーテリングの方法論も、テーマの置き方もすべてが正反対でありながらも、主人公を演じる女優だけが共通している。そう考えると、この作品の本質は、演技者へ課せられた実験なのではないかと推し量らずにはいられない。先に挙げた吉岡と同様、第3話と第4話におけるモトーラの演技は、彼女の持つパブリックイメージに近しいものと、いかにも演技らしいものの二つにかろうじて分けることができる。しかしその反面、一体どちらが素顔に近いものなのかという曖昧さが常にありつづけるのだから、この女優は本当に未知数である。
ファッショナブルな喪服に身を包み、同い年の堀田真由と石井杏奈、わずかに年下ではあるが同じ20代前半の新進女優である河合優実との共演のなか、ナイーブなタッチの画面に鮮烈に焼きつくような存在感を放つ第3話。一方で吉村界人ら年上の俳優たちとの関わり合いのなかで、ぱたりとオーラを抑え何にでも染まりそうな無色な少女へと徹する第4話。会話という聴覚的な刺激の応酬で視覚的な強さを中和していく前者に対し、後者では寡黙に表情の変化によって役柄の心理を体現する。正反対の方向性からアプローチしながらも、行き着く芯の部分は結局同じ、モトーラ世理奈という表現者であるのだと気付かされた時には、すでに又吉の世界にまんまと嵌っているのかもしれない。
モトーラからこの実験的な試みのバトンを継ぎ、第5話「まぼろしの」と第6話「雨が降っている」の主人公を演じるのは石橋菜津美。そして第7話「人間達の声がする」と第8話「椅子を取りに行く」の主人公としてアンカーを務めるのは黒木華。彼女たちがこの先のエピソードでどんな顔を見せてくれるのか。この『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』は、“役者の演技を見る”というドラマの最もシンプルな楽しみ方を存分に味わえることだろう。
椅子と女性の人生を重ねて描く異色のオムニバスドラマ
『椅子』の見どころを徹底解説!
芸人、そして作家として活躍する又吉直樹の無類の“椅子”好きが転じて、書き下ろしストーリーにてドラマ化が実現。オムニバスドラマ『W…
■作品情報
『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』(全8話)
WOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて毎週金曜23:30〜放送・配信
※WOWOWオンデマンドでは無料トライアル実施中
出演:吉岡里帆、モトーラ世理奈、石橋菜津美、黒木華ほか
作:又吉直樹
企画・プロデュース:射場好昭
椅子監修:萩原健太郎
監督:松原弘志、長澤佳也
プロデューサー:小川直彦、長澤佳也、松原弘志
制作協力:TBSスパークル
製作著作:WOWOW
<各話タイトル>
※()内は登場する椅子
第1話「電球を替えたい」(No.14)
第2話「最高の日々」(スツール60)
主演:吉岡里帆
第3話「海へ」(ラ・シェーズ)
第4話「オモイデ」(Yチェア)
主演:モトーラ世理奈
第5話「まぼろしの」(ルイ・ゴースト)
第6話「雨が降っている」(ネイビーチェア)
主演:石橋菜津美
第7話「人間達の声がする」(Aチェア)
第8話「椅子を取りに行く」(アリンコチェア)
主演:黒木華