“椅子”の多様性をドラマで表現 制作陣に聞く、又吉直樹のクリエイティブの力

射場好昭×萩原健太郎、ドラマ『椅子』対談

 芸人・作家の又吉直樹がオリジナルで脚本を書き下ろし、吉岡里帆、モトーラ世理奈、石橋菜津美、黒木華という4人の若手女優の競演で注目を集める『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』。奇妙で複雑な味わいのある“椅子”をめぐる8つのストーリーはどのように生み出されたのか? 企画・プロデュースの射場好昭氏、又吉とともに椅子選びに携わった椅子監修の萩原健太郎氏に話を聞いた。

椅子と又吉直樹のクリエイティブの力

――又吉さんに「椅子をテーマに物語を作ってほしい」とオファーされたそうですが、どのような経緯で今回の企画は生まれたのでしょうか?

射場好昭(以下、射場):椅子でドラマを作るという企画が先にあり、又吉さんが大変な椅子好きらしいという情報を得まして、何か絡んでもらえないだろうかとオファーさせていただいたのが最初です。オープニングに出演していただいて椅子について語っていただいたり、あわよくばストーリーのヒントなどをいただけたりしたら、という感じでした。私がもともとシティボーイズなどのコントの舞台を手がけていたこともあって、コント的なストーリーに又吉さんのエッセンスを入れて、短編映画的なドラマを作りたいとお伝えしたところ、又吉さんから「全部書きたい」とおっしゃっていただきました。こんなありがたいお話はありませんので、椅子選びから又吉さんに入っていただいて、思いついたストーリーをどんどん書いていただこうと。

――椅子でドラマを作ろうという企画が先にあったんですね。

射場:そうですね。今回は又吉さんの想像力に“椅子”という触媒を入れたところ、すごい物語が湧いてきた感じです。「椅子を見ているだけで妄想が湧いてくる」とおっしゃるだけあって、驚くほどスムーズに8つの物語が出てきました。椅子の力でもあるし、又吉さんのクリエイティブの力でもあると思います。

――又吉さんの魅力はどのようなものだと感じていましたか?

射場:文学的な要素と、コントという少人数の人間関係でやりとりされる言葉から生み出される面白さ、その両方を併せ持つ方だと感じていました。コントって、ある種の短編演劇だと思います。又吉さんが太宰治の短編をもとに舞台を上演されたことがありましたが、そのときもコントのようなおかしみを感じるものになっていましたね。

椅子は敷居の高いものではない

――萩原さんは又吉さんとどのように椅子選びを行われたのでしょう?

萩原健太郎(以下、萩原):僕としては同じデザイナーの椅子ばかりとか、北欧の椅子ばかりになるのは避けたかったので、歴史的な意義とかデザイン的な部分で選んだ10から20ぐらいの椅子をあらかじめ又吉さんにお伝えしてありました。その後、一緒にショールームやショップをまわって、又吉さんが関心を持った椅子について説明したり、触ったり座ったりしたりしながら決めていった感じです。

――椅子と向き合っている又吉さんはどんな様子でしたか?

萩原:椅子という存在そのもの、椅子の意義を読み解かれていた感じがします。ご自身がサッカーをやっていたとき、練習中はなかなか椅子に座れなかった経験があるので座ること自体に尊さを感じているとお聞きしました。そこにデザイン的な付加価値がつくところが椅子の素晴らしいところだとおっしゃっていましたね。今回はストーリーの面白い椅子を8脚ピックアップされていたと思います。

――萩原さんは『ストーリーのある50の名作椅子案内』という著書がありますが、椅子の持つ奥深さ、面白さとはどのようなものでしょうか?

萩原:椅子は、使われる用途やシーンによっても違いますし、生まれてきた背景によっても違いますし、素材や技術の進化によって生まれた椅子もあります。たとえば、1話に登場する「No.14」という椅子は産業革命があったから生まれたものです。3話に登場する「ラ シェーズ」はプラスチックの技術がなければ、あんな造形は作れませんでした。5話の「ルイゴースト」はポリカーボネート樹脂という素材を使った比較的新しい椅子です。「ラ シェーズ」は座るというよりオブジェのような椅子ですね。このような椅子の多様性をドラマで表現していただけたんじゃないかと思います。

――2話の「スツール 60」はコピー品が多い椅子として知られていますが、ストーリーにもそれが反映されていました。

萩原:椅子のコピー品は大きな問題ですが、バッグや時計ほどみなさん気にしていないのが、インテリア業界出身の人間としては寂しいんです。今回は本物の椅子をお見せできたのが良かったですし、2話はあの椅子があったからこそ生まれたストーリーだと思います。

――萩原さんは印象に残っているエピソードはありますか?

萩原:どのエピソードも、どの椅子も好きですが、あえて挙げるとすると7話の「Aチェア」でしょうか。自分でも使っていますし、パリに行ったときに使われているシーンを見たりしました。映画『アメリ』に登場する椅子ですが、ロケ地にも行きました。すごく好きな椅子なんですが、日本ではまだ知名度がない椅子なので、ピックアップされて嬉しかったですね。ドラマ的にもすごく面白かったです。椅子をこのように映像で紹介してもらうことはなかなかありませんので、椅子は敷居の高いものではないということをあらためて知ってもらいたいですね。

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