モトーラ世理奈は未知数な表現者 ドラマ『椅子』で女優たちが見せる異なる“顔”
お笑い芸人であり、芥川賞作家であり、そして無類の“椅子好き”でもある。いくつもの顔を持つ才人・又吉直樹が、椅子と女性の人生を重ねたオリジナルストーリーとして生み出した『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』。毎回冒頭に作者本人である又吉が登場することで、このアンソロジーが持つ現実とフィクションの垣根がおぼろげとなり、摩訶不思議な雰囲気がかもしだされる。それは4人の女優たちが2話ずつ主演を務め、それぞれでまるで異なる“顔”を見せることでより顕著になっていく。
すでに放送された第1話「電球を替えたい」と第2話「最高の日々」で主演を務めたのは吉岡里帆だった。前者ではそのパブリックイメージに近しい、朗らかな空気感と若干の影を帯びた顔を見せ、第2話ではまた異なる一人二役を通して“演技をしている”ということを強く感じさせられた。つまり吉岡は一つの作品において、3つの顔を見せたのである。本作のようなアンソロジー作品において最も肝心なのは最初の掴みに他ならない。吉岡を主演に配した掴みの段階で、このドラマは複数の女優の複数の顔を見せるものであると証明し、その主人公のバトンはモトーラ世理奈へと託させるのだ。
第3話「海へ」は、女性たちの会話劇だ。学生時代からの親友4人組の1人がこの世を去り、残された3人が建物の屋上で思い出話に花を咲かせていく。そのシチュエーションについてはっきりと言及されることなく、言葉のニュアンスだけで彼女たちの身に何が起きたのかを伝え、ひたすら彼女たちの間だけでしか通じないような他愛もない会話だけで物語が構築されていく。
一方で第4話の「オモイデ」では、幼なじみでもある恋人との関係に悩む、椅子が好きな美容師見習いの主人公を描く。慣れ親しんだ関係の相手とのやりとりにぎこちなさを覚えながら、職場の上司に連れられて出向いたレストランで出会ったばかりの年上の男性へ向ける、自分のぎこちない様には居心地の良さも悪さも曖昧な手応えを持つ。どこか不安定な主人公の心理に寄り添うようにして、穏やかな結末へとたどり着くのである。
第3話が現在と過去、夢とうつつのおぼろげな境界の上を行き来するような曖昧なタッチの映像のもとで、無限に開けた方向性へと向かっていく友情を描く青春グラフィティであるとするならば、第4話は正反対の位置に存在する。ある種の取捨選択によって将来の方向を一つに絞っていくという青春ラブストーリーの様相を呈しているといえよう。また、本ドラマを通して重要なアイテムとして存在する“椅子”が持つ意味合いも両者ではだいぶ異なっており、第3話の方では死者と生者をつなぐ境界に立つものであるのに対し第4話でのそれは夢という抽象を具現化し、人から人へと受け渡されるものとして現れる。