『マーベラス・ミセス・メイゼル』はプライドの物語? 痛切なレニー・ブルースの訴え

『マーベラス・ミセス・メイゼル』S4を解く

 Tits Up! パンデミックの影響により約2年ぶりとなった『マーベラス・ミセス・メイゼル』、最新シーズン4の登場だ。これに先駆け、ショーランナーのエイミー・シャーマン=パラディーノは来たるシーズン5でのシリーズ完結を発表した。アメリカ芸能史に名を残すコメディエンヌたちにオマージュを捧げた本作は、一介の主婦から芸人を目指す主人公ミッジ(レイチェル・ブロズナハン)が、ショービジネス界を駆け上がる一代記になると目されてきた。しかしシーズン4の時代設定は1959年(映画館に『ベン・ハー』の看板が見える)、モデルの1人であるジョーン・リバーズで言えばキャリアを始めてまだ間もない頃だ。思いのほか早い幕切れに、『マーベラス・ミセス・メイゼル』が1人の女性の変化をミニマルに描く物語として終わろうとしていることが伺い知れてくる。

 今シーズンも相変わらずテンポの早いギャグと役者陣のアンサンブル、リッチなプロダクションデザインにめくるめくカメラワークで魅せてくれるが、シーズン1の爆発的な駆動力を再現するには至っていない。サブプロットには濃淡があり、あれだけ打たれ弱かった前夫ジョール(マイケル・ゼゲン)は今や飲食店経営者として成功し、再婚も目前にして物語上の役目を終えてしまったように見える。

 シーズン4はプライドの物語だ。大物歌手シャイ・ボールドウィン(リロイ・マクレーン)との一件で業界から干されたミッジは、誰からの横槍も受けない、自分らしいパフォーマンスをやろうと心に誓う。ステージに立つ者としての自尊心が備わり、つまらない芸人を見れば「こっちの方が面白いだろ」とギラつかんばかりだ。そんな彼女が場末のストリップ劇場に流れ着く。舞台上の安全管理もなっていなければ、楽屋のホスピタリティもてんでダメなこの場所で、ミッジは専属芸人としてステージに立ち、持ち前のバイタリティでさらには経営も上向かせてしまう。いつしか人気も前座からヘッドライナー級だ。メインストリームと相容れないのなら、セルフプロデュースで成り上がる。これも芸の道を志す者の“戦い方”だ。

 一方、大学教授の職を失った父エイブ(トニー・シャルーブ)はヴィレッジ・ヴォイス誌に招かれる。活気あふれる編集部で演劇評論家としてのキャリアをスタートさせ、長かった壮年のモラトリアムもようやく終わりを迎えたようだ。その初任給はろくに卵も買えない薄給だが、「芸術に」と酒を酌み交わす表情は満足気。エイブが巷で大人気のミュージカルをこき下ろす場面は痛快だ。害のない作品をわざわざ酷評する必要があるのか? という問いに彼は言う。「害はある。見られるべき名作の資金や人手が奪われてしまう」「私には大衆に対する責任があるんだ」。その通り!

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