SF作品『ロシアン・ドール』の圧倒的な“人間ドラマ” 複雑なキャラクター設定が魅力に

『ロシアン・ドール』の圧倒的な人間ドラマ

 Netflixで配信されているドラマシリーズ『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』の第2シーズン全エピソードが、新たに配信された。オリジナリティあふれる第1シーズンの時点で多くの視聴者の支持を受け、数多くの賞にノミネート、プライムタイム・エミー賞の複数の部門を制するなど、評価が高いシリーズである。

 しかしなぜ、本シリーズが、数多くのドラマシリーズのなかで傑出したものになったのか。ここでは、『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』の2つのシーズンの内容を振り返りながら、その背景について考えていきたい。

ロシアン・ドール:謎のタイムループ

 タイトルにある「ロシアンドール」とは、ロシアの民芸品「マトリョーシカ人形」のことを指す。中身が空洞の人形の中に人形が入っていて、さらにその中にも人形が入っているという仕組みが“繰り返されて”いく、「入れ子構造」になっていることが特徴。それは本シリーズの内容が“繰り返し”の物語であることを象徴している。

 第1シーズンでは、ある女性を主人公に、どう行動しても何らかのトラブルで死亡し、自分の誕生パーティーの時間、場所まで何度も何度も引き戻され、時間の中に囚われてしまう、いわゆる「デスループ」の状況が描かれた。

ロシアン・ドール:謎のタイムループ
Courtesy of Netflix (c)2022

 この主人公、ナディアのキャラクターが面白い。本シリーズに人気が集まっているのは、とにかくナターシャ・リオンが演じている、主人公の魅力にある。ナディアはゲーム開発を仕事にしているソフトウェアエンジニアでありサブカルチャーにも詳しい、内面的にはオタク気質のあるインテリだ。同時に、見知らぬ人にも軽口を叩いたり下品なユーモアが好きな、行動的でワイルド、痛快な性格でもある。さらに、情熱的な恋愛で妻子ある男性と交際して家庭を壊してしまったり、その反面シニカルに振る舞って、自分が結婚に向いてないとバーで孤独を噛み締めたり、ホームレスの男性を助ける一面をも見せる。

 つまり、ナディア一人の中に様々な要素が存在し、相反するような複雑な性格が交差しているのだ。通常、ここまで複雑なキャラクター設定を作ると、常識からいえば“盛り込みすぎ”だと判断されたり、視聴者を混乱させる場合が少なくないだろう。しかし本シリーズは、それこそが功を奏しているのである。

ロシアン・ドール:謎のタイムループ
Courtesy of Netflix (c)2022

 そんな数々の要素が無理なく同居し、バランスを保っているのは、ナディアというキャラクターに、彼女を演じているナターシャ・リオン自身の要素が様々に投影されているからだ。リオンはローティーンの頃より俳優として活躍し、40代となっているこれまでに、さまざまなゴシップやトラブル、交際歴によっても知られている。主人公ナディアは、そんな経験をしてきたリオンだからこそ演じられる、人間的魅力にあふれているのだ。第2シーズンでは、東欧にルーツを持ったユダヤ人家庭で育ったというパーソナリティが展開に活かされている。つまり、われわれはナディアを通して、ナターシャ・リオンという個人を間接的に観ていることになる。

 このようなことが可能なのは、本シリーズを主導している本人が、リオン自身であるからである。彼女は主演だけでなく、ドラマづくりの現場を統括する「ショーランナー」を務めるとももに、多くのエピソードで脚本を書き、監督や製作総指揮まで担当しているのだ。そんな本シリーズが、リオンのパーソナリティな投影されるつくりになるのは必然的だといえる。だからこそ、出ずっぱりといえるナディアの姿から目が離せず、噛んでも噛んでも味の無くならないガムのように楽しめる内容になっている。

ロシアン・ドール:謎のタイムループ
Courtesy of Netflix (c)2022

 キャラクターの複雑性が面白さにつながる理由は、ドラマで起こる事態に対し、その反応や行動が視聴者の想像を超えてくるところにもある。キャラクターに奥行きがあることで、本シリーズの登場人物たちの多くが、視聴者にとって興味深い“生きた人間”としての存在感を獲得しているのである。これは、リオンと同じく脚本を担当している、プロデューサーのレスリー・ヘッドランド、コメディ俳優のエイミー・ポーラー、コメディ番組の構成を務めてきたアリソン・ シルヴァーマンなどの手腕でもある。

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