『ベター・コール・ソウル』の“後の展開”を知る者はいない ラロのキャラを変える演出も
※本稿は『ベター・コール・ソウル』第5話、第6話のネタバレを含みます。
眠れない。ラロ(トニー・ダルトン)生存の知らせを聞いたキム(レイ・シーホーン)はそのうすら寒い気配に眠ることができない。夜中にベッドを抜け出ると、玄関の施錠を確認し、ノブの前に椅子を立てかけた。
ラロによって眠りを殺されたのはガス(ジャンカルロ・エスポジート)も同じだ。表の仕事はままならず、マイク(ジョナサン・バンクス)による厳重な警備にも心が休まることはない。いや、彼は何かに気付いたようだ。中断しているラボ建設現場に赴くと、重機の隙間に拳銃を隠した。続く第6話では演じるジャンカルロ・エスポジートが監督を担当。演技プランの延長であったキム役のレイ・シーホーン監督回の第4話とは対象的に、ガス不在のエピソードでありながら今後の展開を予見できているのはガス唯一人という、物語を象徴するかのような手堅いディレクションを見せている。
『ベター・コール・ソウル』シーズン6の第1話以後、姿をくらましていたラロはドイツにいた。彼はラボ建設に携わった技術者ヴェルナー・チーグラー(ライナー・ボック)の妻マルガレーテ(アンドレア・スーチ)に接触する。ヴェルナーは長期間に及ぶ建設工事に精神衰弱し、ガスの目をごまかして妻との旅行に出かけようとしたことで命を落とした。ドイツから呼び寄せられたマルガレーテは、夫の「いいから帰るんだ」という電話に説得され、ワケもわからぬまま帰国。そして夫が“落盤事故”で帰らぬ人となったことを知らされたのである。
この第5話では、さり気ないが、ラロのキャラクターを変える決定的な演出が施されている。ラロは何も知らないマルガレーテを自宅前まで送り届けると、踵を返し、そして“消失”する。時制演出の1つではあるものの、まるでデヴィッド・リンチ映画のようなタイミングと絵作りにドラマの空気はぐにゃりと変わり、「国外逃亡をしたカルテル幹部がドイツに渡航し、わずかな手がかりを頼りにラボ建設作業員を追い詰める」というシーズン6のリアリティラインを補強している。ラロは誰もがいつか直面する死の象徴であり、このエピソードでマルガレーテは何度も目に見えない選択の結果、その運命から逃れているのだ。