『マーベラス・ミセス・メイゼル』はプライドの物語? 痛切なレニー・ブルースの訴え

『マーベラス・ミセス・メイゼル』S4を解く

 そしてミッジの前に大物芸人、ソフィー・レノン(ジェーン・リンチ)が現れる。舞台女優への転身を図ったのも束の間、プレッシャーに負けた彼女はトーク番組で自虐することでお笑い芸人としての凄みを甦らせていく。そんなソフィーに煽られて、ミッジはせっかく手に入れた稼ぎのいい前座仕事を台無しにしてしまうのだ。そうして「前座はやらない」と頑なに誓い、ついには大物トニー・ベネットの前座すら断ってしまうのである。

 ステージに立つ者、とりわけソロで舞台に立つ者には矜持が必要だ。言いたいことを言うために、誰からの干渉も受けない自分の居場所を作る必要がある。だが時にその頑なさが可能性を奪い、成功への道を妨げてしまう。ここにハマって抜け出せなくなる人の方が、遥かに多いのだ(そしてそれは時にトキシックさの温床にもなり得る)。

 シーズン4の終幕、カリスマ芸人レニー・ブルース(ルーク・カービー)は言う。「オレを哀しませるな」。これまでのらりくらりとミッジの前に現れては笑いの薫陶を授けてきたレニーに、今シーズンでは薬物中毒の暗い影が差す。

 レニー・ブルースは政治や宗教、人種差別や同性愛、中絶などそれまでタブーとされてきたアメリカの矛盾に切り込む芸風でカリスマ的人気を博した実在の芸人だ。しかし、その芸風から公然わいせつを理由に度々逮捕され、ついにはオーバードーズで1966年に40歳の若さでこの世を去ってしまう。『マーベラス・ミセス・メイゼル』におけるレニーはさながらミッジの守護天使であり、そして芸に生きることの残酷さを内包した死神である。彼が登場する度に華やかな1950年代には死の匂いが漂い、同じくタブーを超えようとするミッジに“小さくまとまるな”と訴える痛切さは、まるで後の運命を予兆するかのようだ。シーズン4は“笑いの神”レニー・ブルースと、彼が惚れ込んだ“神よりも重要かもしれない女”ミッジのラブストーリーでもある。

 シーズン4の第1話、ステージ上でミッジは言う。「言葉が人の考えを変え、その結果、行動を変える。でも黙ってたら力を発揮できない」。果たしてミッジは自分自身を、そして世界を変えることはできるのか? 『マーベラス・ミセス・メイゼル』のファイナルステージはレニー・ブルースが生き永らえ、そして1人の女性によって笑いが世界の真実を捉える物語になるかも知れない。前に進むんだ、ミッジ!

■配信情報
Amazon Original 『マーベラス・ミセス・メイゼル』シーズン4
Amazon Prime Videoにて独占配信中
(c)Amazon Studios

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