第94回アカデミー賞受賞結果を大予想 サプライズは外国人会員の票次第?

第94回アカデミー賞受賞結果を大予想

 第94回アカデミー賞の投票は3月22日に締め切られ、あとは授賞式を待つのみとなった。ほとんどの映画館が閉鎖されていた2020年度公開作品が対象の第93回とは異なり、映画界も活況を取り戻してきている。とは言っても、今年のオスカーも波乱含みなのは相変わらず。全23部門のうち、作曲賞、美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、編集賞、音響賞、短編映画賞、短編ドキュメンタリー賞、短編アニメーション賞の8部門をABCによるテレビ生中継では省略し事前収録で行うことについて、2月末の発表以来業界内外から批難や抗議が続いている。作品賞や助演女優賞など計7部門ノミネートの『ウエスト・サイド・ストーリー』の主演でマリア役を演じたレイチェル・ゼグラーが授賞式に招待されていないと自身のSNSで暴露した翌日、一転しプレゼンターとして大役をオファーされるという内輪もめもあった。

 規模を縮小し行われた2021年の第93回アカデミー賞の視聴率(アメリカでは総視聴人数で計算)は、1998年の約5520万人から比べると約1/5の1050万人にまで落ち込んでいる。アカデミー賞の視聴率と興行成績・作品認知度は連動し、1998年の第70回作品賞は『タイタニック』、視聴率第2位の1995年(第67回)は『フォレスト・ガンプ/一期一会』、第3位の2000年(第72回)は『アメリカン・ビューティー』となっている。だが、2015年以降は視聴率が落ちる一方で、パンデミック直前の2020年に『パラサイト 半地下の家族』が作品賞を受賞した第92回は、2360万人と全盛期の半分近い数字だった。それでも、ABCは今年度生放送中のCM枠を全て売り切ったと発表している。(*1)これは、4年ぶりにエイミー・シューマー、レジーナ・ホール、ワンダ・サイクスの3人を司会に立てること、Twitterで募った映画ファンによる「人気映画賞」の発表や、スケートボード/スノーボードのショーン・ホワイト選手がプレゼンターとして出演することに対する期待度なのだろうか……。

 前哨戦と言われるいくつかの賞や組合賞の結果はどれも似たような結果が出ている。それらの賞は主にアメリカ国内の批評家や専門組合に属している会員が選んだ賞に過ぎず、ノミネーションの多様性から見られるように、アカデミー賞を主催するAMPAS(映画芸術科学アカデミー)が年々増やし続けている海外会員の票が鍵を握っているのではないだろうか。昨年の授賞式で起きた、発表順序を入れ替えた構成が裏目に出た主演男優賞のサプライズは、アメリカ国内での下馬評と実際の投票者との乖離によるものだ。今年、そのサプライズが起きるとすると作品賞なのではないかと思っている。また、ここでは予想をしていないが、主題歌賞にノミネートされている「Dos Oruguitas」(『ミラベルと魔法だらけの家』でリン・マニュエル=ミランダが受賞すると、EGOT(エミー賞(Emmy)、グラミー賞(Grammy)、アカデミー賞/オスカー(Oscar)、トニー賞(Tony))を史上最速で達成することになる。そのお祝いか、授賞式では大人気の「秘密のブルーノ」のパフォーマンスを行うことも発表されている。最多ノミネートは、作品賞を含む11部門12ノミネートの『パワー・オブ・ザ・ドッグ』だが、生放送では省略される技術5部門を含む10部門ノミネートの『DUNE/デューン 砂の惑星』が、最多受賞作品になるという予想もある。ここでは、生放送で世界中が目撃できる主要部門の予想を行いたい。

★本命
●対抗
▲大穴

主演男優賞

ウィル・スミス(『ドリームプラン』)(c)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ハビエル・バルデム(『愛すべき夫妻の秘密』)
●ベネディクト・カンバーバッチ(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)
▲アンドリュー・ガーフィールド(『tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』)
★ウィル・スミス(『ドリームプラン』)
デンゼル・ワシントン(『マクベス』)

 どの前哨戦でもウィル・スミスが強く、すでに受賞慣れしてしまっている感も。対抗となるのはベネディクト・カンバーバッチだが、このままウィル・スミスが逃げ切ると思われる。アンドリュー・ガーフィールドはノミネートされている今作だけでなく、『タミー・フェイの瞳』そして『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と出演したどの作品における演技も素晴らしく、俳優仲間や実際に制作に関わるようなスタッフから労いの評価を受けそう。ちなみにゴールデングローブ賞では、映画部門のコメディ・ミュージカル部門でガーフィールドが受賞。

助演男優賞

トロイ・コッツァー(『コーダ あいのうた』)(c)2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

キアラン・ハインズ(『ベルファスト』)
★トロイ・コッツァー(『コーダ あいのうた』)
ジェシー・プレモンス(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)
J・K・シモンズ(『愛すべき夫妻の秘密』)
●コディ・スミット=マクフィー(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)

 『コーダ あいのうた』の漁師のお父さんを演じたトロイ・コッツァーが圧倒的に強い。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の静謐なトーンを保つ役割を担っていたコディ・スミット=マクフィーも受賞に値するが、あまりにも役にはまっていたために「他の作品での演技も見てみたい」といった意見が多く見られる。ゴールデングローブ賞ではスミット=マクフィーが受賞している。

主演女優賞

タミー・フェイの瞳
ジェシカ・チャステイン(『タミー・フェイの瞳』)(c)2022 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC. All rights reserved.(ディズニープラスで配信中)

★ジェシカ・チャステイン(『タミー・フェイの瞳』)
オリヴィア・コールマン(『ロスト・ドーター』)
●ペネロペ・クルス(『Parallel Mothers(英題)』)
ニコール・キッドマン(『愛すべき夫妻の秘密』)
▲クリステン・スチュワート(『スペンサー ダイアナの決意』)

 日本では劇場未公開の『タミー・フェイの瞳』のジェシカ・チャスティンがこんなにも評価されていることが、日本の観客にはサプライズかもしれない。同じく実在の人物を演じたニコール・キッドマンとクリステン・スチュワートに比べ特殊メイクによる“化け度”が高く、古参会員の票を集めそう。一方、今年のノミネーション結果から見られるヨーロッパ系作品の強さから、ペネロペ・クルス信仰も相当強いと思う。クリステン・スチュワートはSAG(全米映画俳優組合賞)とBAFTA(英国アカデミー賞)の受賞どころかノミネートを逃したことがどう影響するか……。なお、ゴールデングローブ賞映画部門のドラマ部門ではニコール・キッドマンが受賞している。

助演女優賞

アリアナ・デボーズ(『ウエスト・サイド・ストーリー』)(c)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ジェシー・バックリー(『ロスト・ドーター』)
★アリアナ・デボーズ(『ウエスト・サイド・ストーリー』)
▲ジュディ・デンチ(『ベルファスト』)
キルスティン・ダンスト(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)
アーンジャニュー・エリス(『ドリームプラン』)

 前哨戦では『ウエスト・サイド・ストーリー』のアリアナ・デボーズがほぼ圧勝で、おそらくアカデミー賞で番狂わせが起きることもないだろう。個人的には、『ドリームプラン』のアーンジャニュー・エリスは評価されて然るべきだと思った。破天荒な夫、そしてあのウィル・スミスを支えながらもコントロールしたオラシーンことエリスの内助の功があってこそ。『ベルファスト』を観た全ての観客の心に残るジュディ・デンチの演技もヨーロッパの会員を中心に評価されそう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる