第94回アカデミー賞受賞結果を大予想 サプライズは外国人会員の票次第?
監督賞
●ケネス・ブラナー(『ベルファスト』)
濱口竜介(『ドライブ・マイ・カー』)
ポール・トーマス・アンダーソン(『リコリス・ピザ』)
★ジェーン・カンピオン(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)
スティーヴン・スピルバーグ(『ウエスト・サイド・ストーリー』)
3月初旬に行われた全米監督協会賞では、ジェーン・カンピオンが劇場用映画監督賞を、マギー・ギレンホールが新人監督賞を受賞している。昨年のクロエ・ジャオ監督(『ノマドランド』)の受賞同様、長らく男性社会だった映画監督の世界を内側から変えていくためにも、カンピオンが選ばれると思う。1994年の第66回アカデミー賞では、『ピアノ・レッスン』のカンピオンは作品賞・監督賞で『シンドラーのリスト』のスティーヴン・スピルバーグに敗れていて、28年ぶりの雪辱となるだろうか?
脚色賞
★シアン・ヘダー(『コーダ あいのうた』)
濱口竜介・大江崇允(『ドライブ・マイ・カー』)
ジョン・スパイツ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、エリック・ロス(『DUNE/デューン 砂の惑星』)
●マギー・ギレンホール(『ロスト・ドーター』)
ジェーン・カンピオン(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)
オスカー予想で必ず傾向として上がる、作品賞と監督賞・編集賞の関連。『コーダ あいのうた』は作品賞、脚色賞、助演男優賞の3部門でしかノミネートされていないが、現時点での作品賞最有力候補。シアン・ヘダーが監督賞にノミネートされていないことを残念に思う票が脚色賞に流れるだろう。前哨戦の中で最も遅く、まさに投票期間中に行われた全米脚本家協会賞脚色賞はヘダーが受賞している。既存のフランス映画をアメリカ北東部の小さな町の物語に脚色した手腕が買われた。対抗となるのはマギー・ギレンホール。初監督・初脚本作品で演者から絶大な支持を得ていて、ハリウッドのサラブレッドとして血筋の良さを見せつけた。本来『ドライブ・マイ・カー』が最も評価されるべきは脚色賞だと思うのだが、『コーダ』のしわ寄せを受け、影が薄くなってしまった。
脚本賞
★ケネス・ブラナー(『ベルファスト』)
アダム・マッケイ(『ドント・ルック・アップ』)
ザック・ベイリン(『ドリームプラン』)
★ポール・トーマス・アンダーソン(『リコリス・ピザ』)
▲エスキル・ヴォイト、ヨアキム・トリアー『わたしは最悪。』 )
最も予想が難しい部門。ちなみに全米脚本家協会賞脚本賞は『ドント・ルック・アップ』だが、脚本の良し悪しよりも、出来の良い作品に何かの賞を授けたいという思いが『ベルファスト』もしくは『リコリス・ピザ』に動く可能性がある。この2作品は、ストリーミング全盛時代において頑なに劇場公開を貫いた作品でもある。一部で話題になっている『リコリス・ピザ』におけるアジアアクセント蔑視問題の影響よりも、戦争の影を近くで見ている在ヨーロッパ会員が『ベルファスト』を推しそうなので、僅差でケネス・ブラナーに? また、ノルウェー代表の『わたしは最悪。』は興行収入、人気ともに高いのだが、国際長編映画賞においてほぼ確実視されている作品があることから、「じゃあ脚本賞で……」となる可能性もゼロではない。
長編アニメーション賞
●『ミラベルと魔法だらけの家』
▲『Flee フリー』
『あの夏のルカ』
★『ミッチェル家とマシンの反乱』
『ラーヤと龍の王国』
長編ドキュメンタリー、長編アニメーション、国際長編映画と3部門ノミネートの『Flee フリー』は画期的な作品だが、アニメーションとしての完成度で『ミッチェル家とマシンの反乱』に栄光が。とはいえ、候補5作品のどれが受賞しても遜色ないくらい良作品が揃った1年だった。
国際長編映画賞
★『ドライブ・マイ・カー』(日本)
『Flee フリー』(デンマーク)
『The Hand of God』(イタリア)
『Lunana: A Yak in the Classroom(英題)』(ブータン)
『わたしは最悪。』(ノルウェー)
『ドライブ・マイ・カー』の受賞報告まで秒読み。前哨戦でもほぼ負けなしで、誰に聞いても誰が予想しても『ドライブ・マイ・カー』一択。そしてこの部門は2018年の『ROMA/ローマ』、一昨年の『パラサイト』、昨年の『アナザーラウンド』と毎年概ね下馬評通りの結果となっている。日本のみなさんは、結果にやきもきすることなく濱口竜介監督がどんなスピーチをするかにご注目を。
作品賞
●『ベルファスト』
★『コーダ あいのうた』
『ドント・ルック・アップ』
『ドライブ・マイ・カー』
『DUNE/デューン 砂の惑星』
『ドリームプラン』
『リコリス・ピザ』
『ナイトメア・アリー』
●『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
『ウエスト・サイド・ストーリー』
フランス国立映画センター(CNC)とNetflixが揉め、カンヌ国際映画祭から締め出しを食らった代わりに、賞レースのスタート地点の定番となったヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した『パワー・オブ・ザ・ドッグ』。作品が持つ比類なき強靭さで賞レース前半の紛れもないトップランナーだった。一方、昨年1月のサンダンス映画祭でデビューし、米国で夏に劇場公開とApple TV+で配信された『コーダ あいのうた』は、良質なインディペンデント作品といった作風で、圧倒的な評価・人気を誇る作品ではなかった。2月末の全米映画俳優組合賞(SAG賞)で作品賞にあたるアンサンブルキャスト賞を受賞したことにより、最有力候補に躍り出た。アカデミー会員の大多数を占める俳優たちが選ぶSAG賞からオスカー作品賞の流れは、『パラサイト』の猛撃と重なる。プロデューサーたちが選ぶ、全米製作者組合賞(PGA)でも劇場映画賞を受賞している。『コーダ』チームはホワイトハウスで上映会を開催しバイデン大統領夫妻と面会したり、授賞式後にApple TV+初の盛大なパーティを企画していることが報道されたり、すでに外堀を固めに行っている。ここ数年言われている、ストリーミングVS劇場用映画の争いから、Apple TV+ VS Netflixの闘いに形勢が変化している。しかし『コーダ』に分があるのは以下の3つの点。
アメリカのインディペンデント映画界を支え、数々の名監督を発掘・育成してきたサンダンス映画祭出身映画の初のオスカー作品賞受賞となること。昨今のオスカー作品のように社会批判や重厚なテーマを前面に押し出すことなく、笑いと涙を誘う温かい作品だということ。この2年間のパンデミックや政治経済の乱れ、そして現在起きている戦争も無関係ではない。そして、Apple TV+の指揮を執っているのは、ソニー・ピクチャーズ出身で業界歴の長いエグゼクティブたちだということ。Netflixはストリーミングだからという理由で茨の道を歩み続けているのではなく、映画業界の外側から参入したことに軋轢の原因があったようだ。それでもやはり「ストリーミングか!」という層は、『ベルファスト』に投票することだろう。多様性・包摂性を訴え組織改革を行っているアカデミー賞だが、「映画業界関係者が選ぶローカル賞」であることには変わりがないと証明してしまうだろうか……。
参考
*1. https://www.indiewire.com/2022/03/oscars-ratings-awful-revenue-strong-1234709923/
■公開情報
『コーダ あいのうた』
全国公開中
監督・脚本:シアン・ヘダー
出演:エミリア・ジョーンズ、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、マーリー・マトリン
配給:ギャガ
原題:CODA/2021年/アメリカ・フランス・カナダ/カラー/ビスタ`/5.1chデジタル/112分/字幕翻訳:古田由紀子/PG12
(c)2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS
公式サイト:gaga.ne.jp/coda