『妻、小学生になる。』で吸収力の高いパフォーマンス 毎田暖乃、10歳ながら頼れる存在に

毎田暖乃、10歳ながら頼れる存在に

 エンタメ業界において、デビューから短期間で“トップ”に躍り出る存在は少なくないが、オーディションで勝ち抜き、ドラマ作品での主役級のポジションを手にする者というのはほとんどいないだろう。『妻、小学生になる。』(TBS系)に出演中の毎田暖乃は、まさにそんな存在だ。彼女が同作で演じるのは、“妻”であり“小学生”の役。つまりはタイトルロールなわけだ。作品の中心に堂々と立ち、物語をぐんぐん率いているところである。


 本作が描くのは、夫にとっては妻であり、娘にとっては母である最愛の女性を亡くした家族の元へ、その彼女が10年の時を経て小学生として還ってくるという奇想天外な物語。毎田が演じているのは、この小学生として還ってきた女性・新島貴恵だ。貴恵は、小学生の白石万理華として生活していたある瞬間にふと、生前の記憶がよみがえったのだという。しかし見た目は明らかに子ども。彼女にもまた母親がいるし、小学校に行けば同級生がいる。つまり毎田は本作で、新島貴恵と白石万理華という二人の人物を、もっといえば二人の人格を、一人二役で演じ分けているのだ。ある種ファンタジックな物語だとはいえ、実際にまだ10歳の子役である毎田に課されたものは大きいだろう。


 この設定だけ聞くと、無理があるのでは? と思う方がいてもしょうがない。放送中の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)で深津絵里が自身の実年齢より30も離れた10代の女性を演じることや、『35歳の少女』(2020年/日本テレビ系)で柴咲コウが演じた“身体は35歳だが中身は10歳”といった役ともまた違う。彼女たちは実際に10代の時間を過ごしてきたわけで、自身の経験を役に活かすことができるだろう。しかし一方、毎田の場合は当然ながら成人した経験がない。万理華役に関しては等身大で演じられるのだろうが、貴恵役に関しては、よりパフォーマンス的に演じなければならないわけだ。


 このパフォーマンスに、毎田がこうして抜擢されたゆえんが見えてくる。もちろん、夫を演じる堤真一や、娘を演じる蒔田彩珠ら“受け手”のリアクションがあってこそ成立しているものであることは間違いない。しかし毎田の成人女性然とした堂々たる振る舞いや、妻を亡くしてから暗闇の中を歩いてきた夫への圧を感じさせる叱咤激励の数々、引っ込み思案な娘へ向ける慈愛の言葉ーー。声音の変化とその抑揚、そして身振り手振りとで、夫と娘のいる新島貴恵というキャラクターを見事に表現してみせているのだ。しかも面白いのが、生前の貴恵を演じているのが石田ゆり子とあって、この“新島貴恵”という人物は石田と毎田による“二人一役”でもあること。まず石田の存在があってこそ貴恵のキャラクターは生まれ、それを毎田が自らの身体に落とし込むかたちとなっている。毎田が演じる貴恵を見るにつけ、彼女は非常に吸収力の高い俳優なのだと唸らずにはいられない。

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