『カムカムエヴリバディ』完璧な布陣で作り上げた橘家 家族の原風景はるい編への布石に
「Take me to the United States.」
衝撃的な幕切れとなった安子編の結末から1カ月。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)は舞台を大阪に移して、色彩豊かな青春グラフィティが繰り広げられる。るい(深津絵里)は、ジョー(オダギリジョー)と出会うことで、母・安子(上白石萌音)と過ごした日々を思い出す。本稿では、あらためて安子編の橘家を振り返ってみたい。
なんという温かい光景だったことだろう。思い出すだけでじんわりと温かい気持ちになる。『カムカムエヴリバディ』安子編のワンシーン。ラジオを前にして、祖父母と両親、兄、職人たちの団らんの中心にいるのは幼い安子(上白石萌音)だ。絵に描いたような理想的な家族が、あれほど悲惨な運命をたどろうとは、この時は夢にも思わなかった。
いま思い返しても、橘家のキャスティングは完璧だった。上白石演じる安子の祖父・杵太郎と祖母ひさに重鎮の大和田伸也と朝ドラの出演経験も豊富な鷲尾真知子、父の金太と母の小しずには存在感のある名優・甲本雅裕と西田尚美を配し、物語全体のキーを握る兄・算太を10代から長いキャリアを持ち、『わろてんか』(NHK総合)以来の朝ドラ登板となる濱田岳に託した。職人役の杉森大祐、松木賢三、中村凜太郎も、それぞれ朝ドラ常連俳優である。
主人公の成長を追う朝ドラで、家族の配役が重要であることは言うまでもない。主要キャストであり、比較的長いスパンで登場する両親や兄弟姉妹には、それなりの役者を当てることが通例である。『カムカムエヴリバディ』もその例にもれないが、若干、様相を異にする。母娘3代、足かけ100年にわたる本作は、通常よりも早いペースで物語が進んでいく。ダイジェスト的になりがちな場面でも、演技の呼吸を知り尽くした俳優陣は、シンプルな会話劇にしかるべき情緒をにじませながら、温かくなつかしい家族の原風景を形づくっていた。