『カムカムエヴリバディ』完璧な布陣で作り上げた橘家 家族の原風景はるい編への布石に

『カムカム』完璧な布陣で作り上げた橘家

 こうした理想化された昭和の家族を強調した理由は、後に明らかになる。杵太郎亡き後、空襲によってひさと小しずも帰らぬ人となり、ショックで憔悴しきった金太は、一度は焼け跡に「たちばな」を再建しようとするが、算太が戦地から戻る夢を見た翌朝、急死する。安子も雉真家に嫁いだのち、稔(松村北斗)と死に別れ、幼いるいを抱えて辛苦を味わう。最終的に安子は渡米、算太はふたたび失踪し、成長したるいだけが取り残される。

 鮮やかな場面転換であり、心の拠りどころにしていた娘に拒絶されて海の向こうへ渡った安子の決断の是非や、朝ドラ史上に残るドミノ倒しのような展開に話題が集まる中、一歩引いた視点から見たとき、安子編は幸福だった家族がバラバラに引き裂かれる一家離散の物語だった。あれほど幸せだった一家が、時代の波に翻弄されてなすすべもなく落ちていく。終焉を運命づけられたゆえの完璧な家族だったのだ。人間の持つ避けがたい業のようなものを直視する作家の確かな力量を感じる。

 それと同時に、安子編を想起したとき、不思議なことに、悲劇よりもむしろ幸せな家族の風景や笑顔が脳裏に浮かぶ。日なたの道を歩くぬくもりと言ってもいいだろう。それはラジオから流れる「カムカム英語」のテーマ曲や、あんこの味、安子の笑顔と結びついている。視覚だけでなく、味覚や聴覚も甘く満たされていた時間。その中で俳優たちが画面に刻んだのは、困難に見舞われながら娘を守り育てる母の心情、「おいしゅうなれ」と小豆に呼びかける心だった。悲劇はるいが立ち直っていく次章への布石でもある。「心配事は玄関に置いて/日なたの道へと歩き出そう」。日なたの道を歩む母娘のドラマはこれからが本番だ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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