『おちょやん』など大抜擢が続いた倉悠貴 デビューからまだ2年、現在の魅力を知る3作品
『スパゲティコード・ラブ』(2021年)
最後に、本作を挙げておきたい。この記事が出る時期はまだ配信やソフト化はされておらず、地域によっては上映が終了しているかもしれない新作だが、もし近くの劇場で観られるならば、何としてでも劇場のスクリーンで観ていただきたいという思いからだ。本作は、13人の若者たちの人生が交差するさまを描いた青春群像劇と呼べるもの。三浦透子、清水尋也、八木莉可子、青木柚、さらには土村芳、ゆりやんレトリィバァといった若手世代の個性派が揃い、それぞれに人生模様を展開させていく。すべての登場人物が主人公だともいえるものの、この先頭に立つのが、主演を務める倉なのである。キャストの並びからして、これまた大抜擢といえるものだろう。しかし、彼は見事に主演としての役割を果たしている。
倉が演じているのはフードデリバリー配達員で、大好きなアイドルへの想いに区切りをつけるため、配達1000回を達成するのを目指して自転車を漕いでいる。ほかの登場人物たちとの交流は無いに等しく、ただ彼の自転車を漕ぐ姿が映し出され、みなと同様にモノローグによって心情を語っていく。どのような点で彼が主演としての役割を果たしているのかといえば、それはラストシーンに尽きる。ただただ必死に自転車を漕いでいた彼が、最後に静かな笑顔を見せるのだ。それは、未来を見据え、いまを懸命に生きるほかの12人の登場人物たちの心情をも代弁しているように思えるもの。彼のたった一つの表情が、着地点の見えない群像劇をまとめあげているのだ。
ここに挙げた3作品は、せっかくなので2021年の公開作から選んだ(といっても、2020年の公開作は『夏、至るころ』のみである)。現在は主演映画『衝動』が公開中であり、これもまた彼の主役としての力量が感じられる作品となっている。とはいえ、デビューからたったのまだ2年。伸びしろや、ポテンシャルの高さは未知数だ。2022年も彼の出演作の発表が続々とあるのだろうし、個人的には、観客と直接対峙しなければならない演劇のフィールドではどのような力を発揮するのか、とても気になるところだ。