『マトリックス レザレクションズ』の奇妙な味わい 地に足が着いたメッセージが胸に迫る

『マトリックス レザレクションズ』の味わい

 うだつの上がらないコンピューター会社勤務の会社員トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーブス)には、ハッカーの“ネオ”という裏の顔があった。しかしある日、知り合ったモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)から「人間は実は機械に支配されていて、今、僕らがこうして生きている世界は、ぜーんぶウソ! 仮想現実=マトリックスなの! キミも真実に目覚めて、支配者であるコンピューターと戦おう!」と、2021年の視点で考えるとギリギリな衝撃の真実を教えられる。かくしてネオは、恋人にして女戦士のトリニティ(キャリー=アン・モス)たちと人類を支配する機械文明に立ち向かい、壮絶な戦いの末に命を落とした……はずだった。

マトリックス レザレクションズ

 それから22年、アンダーソン君はゲーム会社に勤務して、それなりの成功を収めていた。ボチボチの日常を送るアンダーソン君だったが、そんな彼の前に謎の若者たちが現れる。実は機械と人類の闘いは続いていたのだ。何でそんな大事なことをアンダーソン君は忘れたのか? そもそも前の戦いで死んだんじゃなかったっけ? いろいろな疑問を抱えつつ、アンダーソン君は若者たちと共に行動するのだが……。

 ラナ・ウォシャウスキー監督×キアヌ・リーブス主演の『マトリックス レザレクションズ』(2021年)には、映像革命と絶賛された1作目『マトリックス』(1999年)のような新鮮さはない。あれは99年という時代、ウォシャウスキー監督やキアヌ・リーブスといった主要メンバーの若さ、アクション監督として巨匠ユエン・ウーピン先生が意外にも参加してくれたこと、現役バリバリのRage Against the Machineの「Wake Up」が流れ出すエンディングが死ぬほどカッコいい……などなど、様々な奇跡が重なった末に成立した1本だからだ(奇跡は再現性が低いから奇跡なのである)。そして1作目の大ヒットを受けて作られた続編『マトリックス リローデッド』(2003年)、『マトリックス レボリューションズ』(2003年)ほどの「何か分からないけど金がかかってんなぁ」というバブリー感もない。それでいて一見さんに厳しく、過去3作を観ていないとワケが分からないだろう。そんなわけで問題点が目立つ映画ではあるが、私はその一方で奇妙な味わいを感じた。まさか『マトリックス』でこんなふうに思うとは自分でも意外だが、VFXバリバリの中身に反して、本作にはフォークソング的な魅力がある。曲調はデジタルながら、歌詞がフォーク的な応援歌になっている「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」みたいなものだろうか。

マトリックス レザレクションズ

 『マトリックス』は、救世主ネオの物語だった。さえないアンダーソン君は非日常的なキメキメのファッションに身を包み、人間離れした身体能力で格闘を繰り広げ、ついに救世主・ネオとして生まれ変わる。対して本作『レザレクションズ』は、一般中年男性のアンダーソン君の物語である。なんとなく日常に違和感を抱きつつ、それでも普通に暮らせているアンダーソン君が、アンダーソン君のまま、機械との闘いに身を投じていく。しかしアンダーソン君は、過去のように人類解放といったデカすぎる目的ではなく、最愛の恋人のために奮闘するのだ。そして本作でキアヌは超能力こそ持っているものの、最強無敵の孤高の救世主にはならない。あくまで最初から最後まで、悩める中年男性のままである。

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