『マトリックス レザレクションズ』の奇妙な味わい 地に足が着いたメッセージが胸に迫る
さらに機械と人間の闘いも、かつてのような常に盗聴を警戒するような緊迫したものではない。敵も味方もどこかコミカルで、妙に人間くさいのだ。邪悪な機械vs善良な人間といった完全な善悪の二項対立ではなく、機械は機械でイイやつらが出てくる。その絶妙なバランスは、「まぁ、現実の世の中はこんなもんだよなぁ」という妙な親近感を持つだろう。もちろん物語のカタルシスを優先するなら、悪い機械vs正義の人間という構図を崩すべきではない。緊迫感を増したいなら、随所でセルフパロディやギャグを挟まない方がいいだろう。それでもこうした映画に仕上げたのは、ラナ・ウォシャウスキーなりの誠実さだろう。「善悪だけで二つに切り分けられるほど世の中は単純じゃないんだよ。キメキメなだけじゃ生きていけないんだよ。あ、でも嘘をついてるヤツを許しちゃいけない。1~2発は殴っとかないといかん」。こうした地に足が着いたメッセージを込め、こじんまりとした映画に仕上げたのは、かつて『マトリックス』という映画で世界を変えてしまった人間としての責任だろう。今やインターネットは世界中で活用され、『マトリックス』さながらにネットで真実に目覚めた人たちが暴れ狂っている。そんな時代だからこそ、こうした本作のメッセージは胸に迫る。Rage Against the MachineからH Jungle with tへ。大人になるとは、こういうことなのかもしれない……そんなふうに心地よく脱力できる1本だ。
■公開情報
『マトリックス レザレクションズ』
全国公開中
監督:ラナ・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、プリヤンカー・チョープラー、ニール・パトリック・ハリス、ジェシカ・ヘンウィック、ジョナサン・グロフ、クリスティーナ・リッチ
配給:ワーナー・ブラザース
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