『最愛』の魅力は“考察”が終わった後も色褪せない 作り手が一番に描きたかったこと

“考察”後も色褪せない『最愛』の魅力

 今のドラマを語る上で“考察”は欠かせない要素となっている。秋クールのドラマでは、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)、『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)、『最愛』(TBS系)の考察が盛り上がりを見せた。だが、3作のアプローチは大きく異なる。

 秋元康が原案・企画を務める『真犯人フラグ』は、『あなたの番です』(日本テレビ系)でみせた考察を誘発する作劇をより推し進めたものとなっている。主人公の身に起きた家族失踪事件を無神経に考察し、二次災害を引き起こすYouTuberを登場させる本作は「考察がもたらす熱狂」すらもドラマ内に取り込んだ究極の考察ドラマだと言えるだろう。

『真犯人フラグ』(c)日本テレビ

 一方、藤井道人がチーフ演出を務めた『アバランチ』は、社会批評として考察を取り込んでいた。動画実況を用いて悪党を裁く謎の集団・アバランチの真の目的は、テロ事件を偽装したと思われる内閣官房副長官の陰謀となっている。劇中の謎を考察させることで日本社会が抱える深い闇を想像させようとする本作のスタンスは、藤井が監督した映画『新聞記者』のアプローチを引き継いだものだ。

 秋元は企画の立場から、藤井は映画監督の立場から考察と向き合うことで、新しいドラマを生み出した。対して『最愛』は、テレビドラマの作り手として考察と向き合うことで、ドラマらしさを追求した作品となっていた。

『最愛』(c)TBS

 本作を手掛ける塚原あゆ子(チーフ演出)と新井順子(プロデューサー)は、『夜行観覧車』、『Nのために』、『リバース』といった湊かなえのミステリー小説を過去にTBSでドラマ化している。『最愛』はオリジナル作品だが、湊かなえ作品で積み上げてきた成果が活かされている。特に甘酸っぱい青春譚からはじまり、現代を舞台にした人間ドラマに焦点が当たる現在と過去を行き来する構成は『Nのために』を彷彿とさせる。

 刑事の宮崎大輝(松下洸平)と、彼が追う二つの殺人事件の重要参考人となる「真田ウェルネス」の代表取締役社長・真田(朝宮)梨央(吉高由里子)は大学時代の知り合いで、梨央は大輝の通う大学寮の寮夫・朝宮達雄(光石研)の娘だった。

 父が病死した後、梨央は離婚した母親で真田ホールディングスの社長・真田梓(薬師丸ひろ子)に引き取られる。一方、殺人事件の被害者は、行方不明となっていた渡辺康介(朝井大智)と、息子を探していた父親の昭(酒井芳)。

 康介と梨央の間には過去に何かがあり、現在は行方不明となっている梨央の弟の朝宮優(高橋文哉)も関わりがあるのではないかと匂わされる中、大輝たち刑事と、梨央や「真田ウェルネス」の法務弁護士の加瀬賢一郎(井浦新)といった真田家の関係者、事件を追うノンフィクションライターの橘しおり(田中みな実)といった人物が複雑に絡み合い、物語が展開されていく。

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