『最愛』の魅力は“考察”が終わった後も色褪せない 作り手が一番に描きたかったこと

“考察”後も色褪せない『最愛』の魅力

 当初は事件の容疑者となった初恋の人と再会した刑事の戸惑いをミステリーの枠組みで見せるラブストーリーになるかと思われた。しかし、話数が進むと視点が切り替わっていき、同じ事件を複数の登場人物の視点で捉える群像劇へと変わっていく。

 作品の中心にある「梨央に何が起きたのか?」という謎の真相はなかなか描かれない。だからこそ事件の真相や殺人事件の犯人を推理する“考察”がネット上で盛り上がった。

 最終話で、最後のピースがはめ込まれた瞬間、今までモザイク状に見えた事件の全貌がはっきりとわかる構成が実に見事で、ミステリーとしてとても上品な作りだと感じた。

『最愛』(c)TBS

 同時に思ったのは、「考察」を誘う謎は、視聴者の関心を最後まで引き付けるための推進力でしかなかったということ。おそらく作り手が一番に描きたかったことは、タイトルの『最愛』という言葉に象徴される「最も愛する人を守るために事件を起こしてしまった人々の美しさと哀しさ」だったのだろう。

 ドラマにとって「考察」は諸刃の剣だ。大きな謎があれば、真相が知りたくて視聴者は作品を追いかける。しかし、納得できる答えを提示できなければ、期待値がそのままマイナスに反転する。逆に辻褄合わせだけが成功しても「こんなもんか」と、すぐに忘れ去られてしまう。

 何より「考察」が盛り上がることで、それ以外の要素が霞んでしまうのが苦しいところだ。芝居やカメラアングルなど、ドラマの魅力はたくさんある。様々な要素を楽しみながら物語を追うのが連ドラの面白さなのだが、近年の作品は「考察」の快楽が全面に出過ぎているように感じる。

『最愛』(c)TBS

 対して『最愛』は演技や演出が、考察の面白さに負けていない。むしろ相乗効果でより魅力的なものとなっている。だから本作で一番印象に残っているのは細部の謎ではなく、吉高由里子や松下洸平といった役者が一瞬だけ見せた何気ない表情だった。

 最終話を観た後、改めて第1話から観直すと、あの時、大輝や梨央はあの時こんな表情をしていたのかという驚きがある。むしろ2周目の方が面白いぐらいだ。考察が終わった後も色あせない魅力が『最愛』にはある。

■配信情報
金曜ドラマ『最愛』
TVer、Paraviにて配信中
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル「君に夢中」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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