『最愛』に込められた“真実”は一言では言い表せない 登場人物たちの“愛の独白”に寄せて

『最愛』登場人物たちの“愛の独白”に寄せて

 「誰かの正義は誰かの悪」なのだと、『最愛』(TBS系)第9話で加瀬(井浦新)が言った。そんな、誰か/何かを愛するがゆえのそれぞれの正義が交差する。タイトルとともにいつも現れる、彼らの秘めた過去の真相が封じ込められているように見える黒い箱は、正方形のようでいて、ともすれば六面体にも見える。角度によって見える真実はそれぞれに違い、一言では言い表せない。何事も注意深く、多角的に見なければ、この物語の「愛」の全ては掬えない。

 12月10日放送の第9話において、SNSのトレンドに真田ウェルネスの「寄付金詐欺」というワードが上がり、ワイドショーとネット動画が梨央(吉高由里子)を疑惑の人として一斉に報じ、彼女に対する謂れのない誹謗中傷が飛び交うさまは、現実世界によく似ていて、ドラマの中の「犯人探し」に夢中な視聴者の心をドキリとさせる。

 さて、『アンナチュラル』(TBS系)、『MIU404』(TBS系)のプロデューサー・新井順子と演出・塚原あゆ子、そして『リバース』(TBS系)の奥寺佐渡子と清水友佳子の脚本によって生まれた完全オリジナルのサスペンスラブストーリーという試みは、視聴者に熱狂的に受け入れられたと言える。

 毎週先の読めないストーリー展開、散りばめられた伏線の数々で多くの「考察」が生まれた。そして物語に最も大きな説得力を持たせたのが、それぞれの「愛」のために動く登場人物たちを演じた俳優陣の力量だった。明るく無邪気な学生時代から始まり、回を重ねるごとに神々しいまでの美しさが増していく吉高由里子。ご飯を食べる場面や、好きな人である梨央を見つめる時のふとした眼差しの変化に、信じられないほどのリアリティを感じさせる松下洸平。吉高の初主演映画『蛇にピアス』からの役者同士の信頼関係も根底にあるのだろうと思わせる、梨央との関係性に絶対的な安定感を感じさせる井浦新はじめ、枚挙にいとまがない。

 また、興味深いのは、吉高の魅力が増していく要因の一つであると思われる、彼女が纏っている衣装の数々である。大輝(松下洸平)と再会する第1・2話では黒の内側に白が見えるスーツだったが、第6話では前後が黒と白のドレス、第7話ではベージュ・茶・赤の3色が見え隠れし、初回冒頭と繋がる第9話では赤地に白いラインが十字架のように伸びているといった、角度によって違う印象を見せる衣装の数々が、より彼女をミステリアスに輝かせる。

 このドラマの登場人物たちは、たくさんの嘘をつく。好きな人の前では、人は心配させまいと気丈な嘘をついてしまうからだ。特に梨央は「大丈夫じゃない時も大丈夫だと言う」し、「大丈夫そうな顔をして頑張っている」と、いつも彼らに思われている。または、嘘はつかなくても、愛する人・会社を守るために、それぞれがたくさんの言えない秘密を抱えている。

 では、何を信じよう。数少ない、信じることができる、彼らの内から出た真実の言葉を借りて、残りの文章を紡ごう。それはまず、各回冒頭で語られるそれぞれの「愛」にまつわる独白だ。そして登場人物たちが何度か繰り返す、「愛する誰かを守るために自分はこうしたい」という切実な思いである。

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