テラシマユウカの「映画の話しかしてなかった」
テラシマユウカと入江悠監督が語り合う、ジャンルにとらわれずに映画を観る楽しさ
映画を愛してやまないPARADISES(パラダイセズ)のテラシマユウカの連載企画「映画の話しかしてなかった」。本企画では、大の映画好きを公言してやまないテラシマユウカが、毎回ゲストを招いて、ただただ映画について語り合う。
第5回目となる今回のゲストは、韓国でロケを敢行した映画『聖地X』が公開を迎えた入江悠監督。入江監督が語る韓国と日本の環境の違いから、ジャンルにこだわらない映画作り、今後の展望まで語り合った。
ジャンルに囚われない作品作りへの挑戦
ーーテラシマさんは『聖地X』をどのように観ましたか?
テラシマユウカ(以下、テラシマ):ホラー映画がもともと大好きなんですが、『聖地X』はホラー映画の要素もありつつ、ミステリー小説を読み進めていくような感覚があって。小学生の頃にミステリー小説を図書館で読んでいた時期があったんですが、その頃のワクワクを思い出すような作品で、とても楽しかったです。
入江悠(以下、入江):それは嬉しいです。ありがとうございます。当時はどんなミステリーを読んでいたんですか?
テラシマ:江戸川乱歩は結構読んでいました。図書館にあるものから手当たり次第に手にとっていました。
入江:そうなんですね。僕もミステリーがすごく好きなんですよ。
ーー本作のミステリー要素は意識的でもあった?
入江:そうですね。原作から意識して変えた部分でもあります。今回は、自分の中では、新しい領域にチャレンジすることが裏のコンセプトかもしれません。今までは、自分の身近なテーマや地元を舞台にした作品が多かったんですけど、今回は全く自分と関係ない話。もちろん好きなことは入っているんですけど、どういう映画になるのかわからないまま作っていたんです。だから、こうして今観た方の感想を聞いているのが新鮮な気持ちですし、どう感じられたのかすごく知りたいですね。
テラシマ:確かに身近なテーマというより、それこそファンタジーというか、全然別の世界のできごとを観ているみたいで、SF作品にも近いものを感じました。
入江:ホラーにミステリー、SFも入っていて、ジャンルがブレンドされている感じがありますよね。
テラシマ:韓国で撮影されたということなんですが、原作の舞台は韓国じゃなかったんですね。
入江:そうです、韓国で全部撮影しました。原作では日本だったんですが、プロデューサーが「韓国で撮影できる体制が組めそうだからよかったら韓国でやらないか」と声をかけてくださったんです。僕は韓国映画がすごく好きだったので、ぜひやりたいと。あと、「日本にいるはずの人がなぜか韓国にいる」という設定も、海を隔てて起きる怪奇現象をモチーフにした本作に合うと思って。
ーー韓国ロケだからできたことも多かったですか?
入江:やっぱりロケーションの違いは大きいですね。主人公が住んでいる島の外れにある別荘、不思議な現象が起きる食堂などは日本風の建築と当然違うんですが、だからこそ観る人の違和感を生む感じがあって、面白いですね。
テラシマ:確かに間取りが見慣れない感じだったことで、作品の奇妙さが倍増して、本当に異世界に迷い込んだ感覚になりました。
入江:おっしゃる通りで、全然間取りも違うし、生活環境も違うんですよね。特に主人公が住んでいる別荘は玄関からじゃなくて庭からみんな入っていったり。そういう構造も含めて、撮っていて面白かったですね。
テラシマ:日本では撮れない作品になったということでしょうか?
入江:撮れないですね。あと光の加減が微妙に日本と違う。日本はちょっと湿った感じがあるんですが、韓国は少しさわやかで色がきれいだったんです。それもよかったです。
ーーホラー作品においてロケーションは重要な要素ですよね。
入江:そうですね。でも韓国では、バイオレンスや恋愛映画は多いんですが、SFやホラーは少ないらしいです。そこは日本と違うかもしれません。撮影前に韓国のホラー映画を観ようと思ったんですが、そこまで本数がなかったんですよね。
ーーテラシマさんはホラー映画をよくご覧になっている印象です。
テラシマ:私は欧米系のホラーを観ることが多いんですが、どちかというと悪魔だったり、呪いだったりが多くて(笑)。人間のストーリーとはまた別のものとして観ることが多かったんです。でも本作は、登場人物それぞれの関係性も描きつつ、ホラー要素もあるストーリーが進んでいくという構成で。あまり似たような作品をこれまで観たことがなかったんですが、起きた現象によって人間性や関係など現実の要素も変化していくのが新鮮で面白かったです。
入江:おっしゃる通りアメリカやヨーロッパにいくと悪魔、日本だと幽霊じゃないですか。本作もホラー的要素はありますが、ある意味そういう作品とは全然違うんですよね。確かに僕も撮りながら、本作に出てくる奇妙さの正体ってなんなんだろうと思っていました。あと、僕の10代の頃ってJホラーブームがすごかったんですよ。
テラシマ:私は、本作にも出演されている川口春奈さんが出ていらっしゃった10年くらい前の『POV』というホラー映画がきっかけで、ホラー映画にめちゃくちゃはまり始めたんです。でも、やっぱりそれから10年が経って、だんだん日本のホラー映画の雰囲気も変わってきたように感じます。
入江:そうですよね。自分も本当に面白くて、観まくっていたんですが、同じ話をもう一回やってもだめだろうと思っていたし、偉大な先輩方がたくさんいるからこそ、今回あまりホラーという枠組みを意識せずに、起きる不思議さ自体にフォーカスしていった部分はあります。これまで僕はホラーには絶対手を出すまいと思っていたんですよ(笑)。だけど原作を読んだとき、これなら原作の面白さを活かしながら、これまでのJホラーとは違う角度で不思議さの細部を描けると思ったんです。ホラーはいまだに自分も観るのが好きで、ジェームズ・ワンは天才だと思っています(笑)。
ーー入江監督がこれまでそうしてきたように、本作もホラーというジャンルに囚われずに作った結果だと。
入江:そうですね。とくにこの作品は、観た人がどう思うのか全く見えずに撮っているところがありまして。編集して完成を迎えてようやく、「そうか、これは過去や自分の大事なものと向き合う話なんだ」と気づきました(笑)。不思議な映画ができるだろうとは思っていましたが。
テラシマ:私も観終わった後に、これはどういうジャンルなんだろうと思って。ホラー好きなので、いろんな人にホラー作品を勧めるんですが、みんな「怖いから」って嫌がるんですよ(笑)。でもこの映画こそ本当に、ジャンルにとらわれずに皆に観てほしいとおすすめできる映画だと思いました。
入江:ありがとうございます。個人的にも、今まで作ってきた映画が、青春映画やSFだったりとカテゴライズされることが多いんですが、そうすることで実は面白いものがこぼれ落ちているんじゃないかと思う節もあって。特に最近の海外から入ってくる映画って、本当にジャンルレスな映画が多くて、それがすごく面白いんですよね。『ボーダー 二つの世界』だったり、『ミッドサマー』だったり、別にホラーとして観なくてもめちゃくちゃ面白いじゃないですか。だから、そういう映画をあえて一口でまとめなくてもいいんじゃないかという気もするんです。
テラシマ:確かにそうですね。私も観る前に固定観念を作りたくなくて、映画の予告編とか事前情報をあまり見ずにそのまま映画館に行くことが多いです。
入江:1番いいのはタイトルの名前だけで観に行くことですよね。僕はアメリカの(M・ナイト・)シャマラン監督がすごく好きなんですが、予告編が流れたらなるべく目をつむるようにしています(笑)。
ーー『オールド』も面白かったですよね。
入江:『オールド』、めちゃくちゃ面白かったですよね。あれもホラーと言っていいのかわからないジャンルで。
テラシマ:ホラーと思って観に行くんじゃなかったと思っていました。
入江:コメディーと言えばコメディーですしね。だから、やっぱりカテゴリーに無理にはめる必要はないんじゃないかなと。