天才ジェームズ・ワンの元気が出る映画 『マリグナント 狂暴な悪夢』はまさに全部乗せ

天才ジェームズ・ワン『マリグナント』で帰還

 天才ジェームズ・ワンの元気が出る映画……『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021年)は、そういう映画である。どっからどう見てもホラー映画だし、実際に間違いなくレンタルショップや動画配信サービスではホラーの枠に入るだろう。堂々のR18+指定に相応しい血みどろ残虐シーンも頻出するが、なぜか観終わった後には爽快感/痛快さが残る、間違いなく元気が出る映画である。「やられた~!」「何だか分からんがスゲェものを見た!」こういった気持ちになること請け合いだ。唯一の弱点は、紹介するのが難しいことくらいだろうか。『カメラを止めるな!』(2018年)や『パラサイト 半地下の家族』(2019年)に近いタイプの作品であり、ネタバレなしで魅力を語るのが難しい。必要最低限の状態、つまりは……。

 幸が薄い女性のマディソン(アナベル・ウォーリス)は、とある事件をキッカケに、謎の男が殺人を犯す現場の幻影を見るようになった。しかも、その幻影は実査に起きた殺人事件とピタリと符合する。これは夢か現実か? 殺人鬼の正体とは?

 ……この公式に明かされている簡素な情報以外は、知らないままで観てほしい。映画を薦める記事としては、それが最善だと思う。というわけで、ここからはワン監督の魅力と特徴、それがどう『マリグナント』の面白さに関わっているかを、できる限り同作のネタバレをせずに書いていきたい。

 ワン監督といえば、デスゲーム系の金字塔『ソウ』(2004年)で鮮烈なデビューを飾り、現在では『死霊館』シリーズ(2013年~)と『アクアマン』(2018年)のブッとい2つのシノギを軸に、ハリウッドの昇り龍として活躍している人物だ。プロデューサー業や若手の才能発掘にも熱心で、彼の下で映画作りの修行を積んで、羽ばたいていった監督もいる。まさに俺指定ホラー映画団「ワン一家」のカシラであるワン兄さんだが、近年は音と間で恐怖を煽る『死霊館』を主なシノギにしていたせいか、ホラーの重要人物でありながら、残虐描写は控えめになっていた。一見すると「イケイケはもう卒業」宣言とも捉えられる変化だが、実はこの方向転換によって、ワン兄さんは映画力、とりわけ画面構成力とストーリーテリング力に磨きをかけていたのである。観客の視線と思考をどうやって誘導するのか? 画面内のキャラクターの位置関係や、複雑な状況、背景、設定を、いかに面白おかしく、観客を退屈させずに説明するのか? この数年でワン兄さんは、こうした部分をメキメキと進化させていった。

ジェームズ・ワン監督

 そして『アクアマン』の「海底世界から逃げ出してきた王女が、灯台守の人間と恋をして子どもを授かるが、海底世界からの追手と壮絶な戦いになり、最終的には夫と子を守るために、人間世界に別れを告げて海へ戻ってゆく」……これだけで1本の映画になりそうなくだりを10分に収め、さらに王女も灯台守も好感の持てる人物として描き、ド迫力のアクションまでも詰め込んだ。この離れ技をモノにしたとき、ワン兄さんは一回りデッカい男になったのである。

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