『エウレカセブン』とは何だったのか 『EUREKA』PVに欠けている点から紐解く

 受け手に開放感を与える「青空を駆ける」イメージと、「媒介」の主題を視覚化する「流体」のイメージ。これが『エウレカ』においては中心にありながらも、『EUREKA』のPVには欠けているものである。一方で「対話」というテーマについては、『ハイエボ』シリーズを通して別の仕方で表現されてきたという整理も可能だ。これまでの『ハイエボ』2作においては、テレビシリーズの映像をコラージュ的に編集し、新たに音声を収録するという方法で別様の物語を作り出す手法が用いられてきた。そうしたメタ的な操作を作中設定としても取り込んだところに前作『ANEMONE』の凄味はあり、2021年の今なら「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の“ネオン・ジェネシス”に先駆けていたアイデア」と言えばいわんとすることは伝わるだろう。いわば漫画版などメディアミックスをも含めたすべての『エウレカセブン』を救済しようとしているのが『ハイエボ』シリーズであり、それはシリーズに並走してきた他ならぬ視聴者との「対話」を試みようとした結果でもあったはずである。

映画 『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』 KAGAMI 「Tiger Track」 PV

 『ANEMONE』において、これまで視聴者の前に展開されてきたすべての『エウレカセブン』は、『ハイエボ』世界のエウレカが死せるレントンに再会しようと繰り返し見ていた夢であったという再定義がなされた。『ANEMONE』のラストカットにようやく姿を見せ、しかし『EUREKA』公式サイトのキャラクター紹介には劇場公開前の本稿執筆時点で未だ掲載されていないレントンがどのような形で登場するのか、そこに『ハイエボ』が目指してきた「対話」のひとつの答えがあるのだろう。一方、キービジュアルでエウレカが抱きかかえている新キャラクターの少女・アイリス(新たなる「エウレカ」?)との世代間を超えた「対話」のテーマも、ゲッコーステイトのリーダー・ホランドとレントンの関係然り、シリーズ全体を通して描かれてきたものである。あるいは彼女自身が何かしらの形で、異なる立場の二者を媒介する「インターフェイス」の役割を担うのかもしれない。

 整理しよう。『エウレカ』と『ハイエボ』3部作はともに「対話」のテーマを扱っていながらも、かたやイメージの「ベタ」な操作において、かたや編集という「メタ」な操作によってそれを表現している。後者は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にも通ずる「現実と虚構の関係」「受け手と作り手の関係」にメスを入れるものであり、そこでは「エウレカセブン」という(作中/作品外の現実のどちらにも存在する)固有名詞が掛け金となっていた。一方、前者は言語的な領域ではなく、あくまでイメージの領域にて同様のテーマを扱う。言語的要素に依らない「イメージの連なり」に着目することで、シリーズのオリジンたる『エウレカ』を「ロボットアニメ」や「セカイ系」といったジャンル区分ともまた異なるアニメ史の流れに接続することができ、それは『ハイエボ』という対照的なルックを持つシリーズが生まれたからこそ可能になったのである。『EUREKA』は確かに『エウレカセブン』シリーズ全体を総括する内容だが、それはこれまでのシリーズ固有の魅力を些かも毀損するものではない。いわんや過去のシリーズを新たな視点で観返す契機にもなるということを、本稿が示せていたなら幸いだ。

■公開情報
『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』
11月26日(金)全国ロードショー
声の出演:名塚佳織、遠藤璃菜、小清水亜美、森川智之、根谷美智子、宮野真守、水沢史絵、小杉十郎太、久川綾、佐々木敏、下野紘、豊口めぐみ、沢海陽子、三木眞一郎、銀河万丈、千本木彩花、潘めぐみ、瀬戸麻沙美、M・A・O、嶋村侑、諸星すみれ、三瓶由布子、山寺宏一
監督:京田知己
脚本:野村祐一、京田知己
原作:BONES
音楽:佐藤直紀
主題歌「Eureka(feat. kojikoji)」変態紳士クラブ(TOY’S FACTORY)
アニメーション制作:ボンズ
製作:バンダイナムコアーツ、バンダイナムコセブンズ、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、ボンズ、サミー、MBS
配給:ショウゲート
(c)2021 BONES/Project EUREKA MOVIE
公式サイト:eurekaseven.jp

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